マイクロソフト(MSFT)が自社開発によるAIチップ「Maiaシリーズ」の次世代モデル「Braga(Maia 200)」の量産開始を、当初予定の2025年から2026年へ延期したそうです。この決定は、エヌビディア(NVDA)への依存から脱却しようとする同社の戦略にとって、大きな後退を意味しています。
開発遅延の背景にある課題
Maia 200は、当初2025年中の量産を予定していましたが、設計の変更、エンジニア不足、そして開発チーム内での離職率の高さなどが重なり、プロジェクトは半年以上の遅延に直面しています。関係者によると、オープンAIからの新たな機能要望が設計の大幅な見直しを引き起こし、シミュレーション段階での不安定さが開発を妨げたといいます。
さらに、マイクロソフト経営陣は「年内の設計完了」という厳しい期限を課しており、そのプレッシャーから一部の開発チームでは20%に及ぶメンバーが離職したとのこと。最終的に設計は2025年6月に完了しましたが、量産までにはさらに6〜8ヶ月を要する見込みだそうです。
Maia 100の実用性に課題、Bragaも性能面で苦戦
2023年に発表された初代チップ「Maia 100」は、CopilotやChatGPTの運用を想定して開発されましたが、実際には内部テストのみに使用されており、本番環境での運用は行われていません。その理由は、設計が2019年と古く、生成AIではなく画像処理向けに最適化されていたためです。
次世代のBraga(Maia 200)は推論処理に特化していますが、エヌビディアが2024年に発表した「ブラックウェル」チップと比べると、処理性能や電力効率の面で劣っているとみられています。本格的に競争力を持つとされる「Clea(Maia 300)」の登場は、2027年以降になる見通しです。
各社のチップ開発状況とエヌビディアの優位性
マイクロソフト以外にも、アマゾン(AMZN)やアルファベット(GOOGL)などの大手テック企業が、エヌビディアに依存しない独自チップの開発を進めています。アマゾンは、前世代の2倍の性能を持つ「Trainium 3」を2025年末までに提供予定です。グーグルも、独自のAIチップ「TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)」を約10年にわたり開発しており、次世代モデル「Ironwood」の量産を2025年から開始する計画です。
ただし、グーグルはTPUだけではカバーできない用途においては、引き続きエヌビディア製チップを併用しています。自社クラウドサービスでも、エヌビディアのGPUが活用されています。
エヌビディアCEO、独自チップへの取り組みに冷静な見方
エヌビディアCEOのジェンスン・フアン氏は、「市販のチップより優れていないのであれば、わざわざ独自のASIC(特定用途向けチップ)を作る意味はない」と語っています。同社はフラッグシップAIハードウェア「GB200」において、高い性能目標を設定し、他社の追随を困難にする戦略をとっています。
今後の展望とリスク
マイクロソフトは、Bragaの次に「Braga-R」、さらに「Clea(Maia 300)」の投入を計画しており、2027年までに競争力あるAIチップを揃える構想です。しかし、現在の遅延と開発面での課題を克服しない限り、スケジュール通りの展開は困難です。
AI技術が急速に進化する中、設計から量産まで約2年を要する専用チップは、完成時点で時代遅れになるリスクもあります。マイクロソフトのAIチップ戦略が、今後のクラウドAI競争における命運を握る鍵となるかが注目されています。