2025年6月、インターナショナル・ビジネス・マシーンズ(IBM)は、日本国内の研究拠点に量子コンピューター「IBM Quantum System Two」を設置したと発表しました。これは、同社の量子システムが米国外に展開される初めてのケースとなります。
量子コンピューティング分野で長年にわたり着実な進歩を遂げてきたIBMにとって、今回の導入は大きな節目となります。
最高性能を誇る量子チップ「Heron」
IBMが開発した「Heron」プロセッサは、これまでで最も高性能な量子チップと位置づけられています。前世代に比べて回路の深さが増し、誤差率も大幅に改善されています。リサーチ企業ガートナーのアナリスト、マーク・ホーヴァス氏は「IBMは、2029年までに誤り耐性のある完全な量子コンピューターを実現するという目標に向けて、着実に進んでいる」と評価しました。
一方で、「Heron」が“世界最高性能”であるというIBMの主張には客観的な比較基準がないため、断定するのは難しいという指摘もあります。
理化学研究所と「富岳」とのハイブリッド連携
今回のIBM Quantum System Twoは、兵庫県にある理化学研究所 計算科学研究センターに導入されました。ここでは、スーパーコンピューター「富岳」が稼働しており、新たに量子コンピューターと連携した「ハイブリッドモデル」が構築されます。
このモデルでは、古典的な高性能コンピューター(HPC)が大部分の計算処理を担い、量子コンピューターは特定の問題に対して高い計算能力を発揮します。最適化やグラフ彩色、分子構造の解析といった分野での活用が見込まれています。
誤り訂正技術とノイズ対策が実用化の鍵
量子コンピューターは、微細な粒子を使って情報を処理する性質上、誤りやノイズが避けられないという課題がありました。しかし、ここ5年ほどで誤り訂正技術やノイズ抑制技術が大きく進展し、より安定して正確な計算結果が得られるようになっています。
IBMが今後導入予定の「Starling」システムは、計算中に発生する誤りをリアルタイムで検知・修正する仕組みを備えています。これは、完全な誤り耐性を備えた量子コンピューターへの重要なステップとなります。
「量子スケーラビリティ」への挑戦と開発戦略
IBMの量子事業を率いるジェイ・ガンベッタ副社長は、バロンズのインタビューで「われわれは常に、量子コンピューターを拡張するために何を学ぶべきかを重視してきた」と語っています。IBMでは、新しい量子デバイスを平均17日ごとに開発しており、学習と改良のサイクルを高速化することを重視しています。
同社は2030年までにフォールトトレラント(誤り耐性)な量子コンピューターの完成を目指しており、すでにその実現に向けた道筋が整いつつあります。
まとめ:IBMの量子戦略が世界展開へ
IBMは、量子コンピューターの世界展開を本格化させており、今回の日本への導入はその象徴的な第一歩です。AI技術が短期間でニッチから主流へと進化したように、量子技術も今後数年で実用フェーズに移行する可能性が高まっています。
研究開発の加速とともに、量子コンピューターが現実の問題解決に使われる日も、ますます近づいているようです。IBMをはじめとする量子企業の動向から目が離せません。
*過去記事はこちら IBM