スイスの金融大手UBSがこのほど公開した142ページのリポートによれば、今後10年以内に世界で稼働するヒューマノイドロボットは200万体に達し、2050年には3億体規模へ拡大すると試算されています。
これらのロボットの総潜在市場規模は2035年までに300億ドル〜500億ドル、2050年までに1.4兆ドル〜1.7兆ドルに達するとレポートは見込んでいます。これは、部品、製造、ソフトウェア、データ、サービスへの支出を含む数値です。
価格低下と「EVモーメント」
UBSは、ヒューマノイドロボットの普及には自動車産業で電気自動車が歩んだような価格低下フェーズが必要と指摘しています。量産効果とサプライチェーンの効率化が進めば、販売価格と運用コストは20年以上経てば70%以上下がるとみられます。販売台数が年間100万台規模から1000万台規模へ一気に伸びたEVの事例になぞらえ「EVモーメント」到来は5年超先になる可能性が高いと分析しています。
恩恵を受ける産業と企業
UBSは、世界の自動化関連企業、自動車部品メーカー、半導体メーカー、バッテリー企業、レアアース精錬企業が大きな恩恵を受けると述べています。具体的な銘柄として、エヌビディア(NVDA)、浙江拓普集団(601689)、サンホア(002050)、ライナス・コーポレーション(LYC)、THK(6481)、ハネウェル(HON)、台湾積体電路製造(TSM)、ウィル・セミコンダクター(603501)、コグネックス(CGNX)、アンフェノール(APH)、イノバンス・テクノロジー(300124)などが挙げられました。テスラ(TSLA)も投資判断は「買い」ではないものの、ポジション的には有利と評価しています。
自動化収益とレアアース需要の拡大
UBSのシナリオでは、2050年に8600万体のヒューマノイドロボットが導入されると仮定した場合、世界の自動化関連収益は現在(2025年)の4倍となる4000億ドル増加し、レアアース関連収益も2倍の70億ドルに拡大すると見込まれています。特にサーボモーターや高トルクアクチュエーターに不可欠なネオジム磁石需要の増大が、レアアース価格を押し上げる可能性があります。
経済的インパクト:生産性より供給制約の解消
ヒューマノイドロボット導入による最大のメリットは、単純な生産性向上よりも、人口減少によって生じる労働力不足を補う点にあります。特に介護や物流、小売、サービス業など高齢化社会で需要が伸びる分野で、人手不足を緩和する「供給制約の解消」が期待されています。UBSは、これが長期的に世界経済を下支えする緩やかな資本投資の流れになるとみています。
投資家への示唆
- 人口動態と技術進展の両方を考慮した長期視点の投資テーマとしてヒューマノイドロボット市場は注目度が高まっています。
- 半導体やモーターなど部材供給網の上流に位置する企業はボラティリティが高い一方、需要拡大の初期段階で利益率改善が期待できます。
- ロボット本体メーカーだけでなく、ソフトウエア、クラウド、データ解析を提供する企業にも視野を広げることで、リスク分散とリターン拡大が図れます。
まとめ
ヒューマノイドロボットは短期的に過大評価されがちですが、長期的には労働人口減少という構造課題を解決する技術として浸透する見通しです。2035年にかけて価格低下と技術成熟が進めば、市場規模は500億ドル規模へと成長し、2050年には現在の想像を超える産業基盤となる可能性があります。今から関連サプライチェーン企業に注目し、分散投資で長期ポートフォリオを構築することが重要です。