中東情勢の緊迫化が、原油市場に大きな影響を及ぼしています。イスラエルとイランの戦争勃発により、2025年6月初旬から原油価格は23%上昇し、1バレルあたり75ドルに達しました。とくに世界の原油の20〜30%が通過するホルムズ海峡の閉鎖リスクが意識され、投資家にとって不透明な局面が続いています。
こうした不安定な状況下でも、財務基盤が強固で、低コスト体制により安定配当を継続している石油企業に注目すれば、リスクを抑えつつ配当収入を狙う戦略が可能です。
原油価格の動向とOPECの影響
戦争前の2025年4月には、供給過剰懸念から原油価格は60ドルを下回っていました。さらに5月にはOPECが日量220万バレルの増産計画を発表。一方で、トランプ大統領による関税政策などを背景に、世界経済の減速懸念も高まっていました。
現在の価格上昇が戦争の影響による一時的なものである可能性もあり、早期に終結すれば再び価格が急落するシナリオも考えられます。
Russell 1000指数構成銘柄の石油株は平均で約3%の配当利回りを誇り、2025年には利益の約50%が配当に充てられる見通しです。ただし、この数値は原油価格次第で大きく変動します。
有望な中堅石油企業に注目
変動の激しい市況下でも、堅実な経営と高い資本効率を維持している中堅企業は注目に値します。
スミード・キャピタル・マネジメントのCEOであるコール・スミード氏は、投資資本利益率(ROIC)が高く、ヘッジ戦略で収益を安定化させている企業を推奨しています。同氏が注目するのはアパッチ・コーポレーション(APA)とダイヤモンドバック・エナジー(FANG)です。
- APA:配当利回り4.9%、2025年予想利益の40%未満を配当に充当
- FANG:配当利回り2.6%、同じく40%未満を配当に充当
どちらも業界平均並みの資産収益性を持ち、安定感が魅力です。
大手石油企業の安定性も魅力
大手企業は強固なバランスシートと事業の多角化によって、原油価格の変動をある程度吸収できます。
モルガン・スタンレーの商品戦略家デビン・マクダーモット氏は、エクソンモービル(XOM)を推奨。2025年には利益の約60%を配当に回す見込みで、配当利回りは3.5%と高水準です。
さらに、米国内に事業を集中させているデボン・エナジー(DVN)とパーミアン・リソーシズ(PR)も有力候補とされており、
- DVN:配当利回り2.8%
- PR:配当利回り4.1%
いずれも2025年予想利益の約40%を配当に充てており、原油価格が70ドル以上で推移すれば増配も期待できます。仮に50ドル台まで価格が下がっても、配当は維持できると見られています。
カナダの石油株も選択肢に
米国だけでなく、カナダの石油株にも魅力的な銘柄があります。
RBCのアナリスト、マイケル・ハーヴィー氏は、カルガリーを本拠とするARCリソーシズ(ARX)を「ベストアイデア銘柄」に選定。配当利回りは2.4%と平均を下回りますが、利益のわずか30%しか配当に回さず、残りは自社株買いに活用しています。
スミード氏はこの方針を高く評価しており、税効率の観点からも配当より自社株買いを重視する姿勢が投資家にとって魅力的と語っています。さらに、原油価格上昇時にも生産拡大より資本還元を優先する方針が、長期的視点の投資家に安心感を与えます。
戦争下でも配当株を選ぶ明確な視点
地政学リスクが高まる中でも、以下のような条件を満たす企業に投資することで、長期的な安定収益を目指すことが可能です。
- 低コスト運営
- 健全な財務体質
- 無理のない配当性向
- 自社株買いによる資本還元方針
原油価格の上昇による恩恵を享受しつつ、過度なリスクを避けたい投資家にとって、今こそ冷静に企業の「質」を見極めるタイミングかもしれません。