TSMCこと台湾積体電路製造(TSM)は、米中間の地政学的緊張が続く中で、巧みに戦略転換を進めています。中国向け事業の比重を下げる一方、米国での生産体制強化が順調に進んでおり、主要顧客であるアップル(AAPL)やエヌビディア(NVDA)などからの需要を確保しています。
台湾が中国ハイテク企業への輸出規制を強化
台湾政府は、ファーウェイと中芯国際集成電路製造を輸出管理リストに追加しました。このリストにより、台湾企業はこれらの企業に製品を販売する際、政府の許可が必要になります。
TSMCにとってこの制限は大きな影響を与えません。というのも、TSMCはすでにアメリカの技術を使用していることから、米国の輸出規制によりファーウェイや中芯国際との取引が制限されているためです。ただし、TSMC製の回路がファーウェイの最新AIチップ「Ascend 910B」に含まれていたという報道により、米国当局の注視を受けた経緯もあります。
米国での半導体生産が着実に進行中
TSMCは米国アリゾナ州でのチップ製造に約1650億ドルを投資する計画を進めており、すでにアップル、エヌビディア、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)などが初回製造を完了しました。ただし、先端パッケージングは台湾で行う必要があるため、完全な現地生産にはまだ時間がかかります。
TSMCはアリゾナ工場で2ナノメートルプロセスによるチップを2028年にも製造開始する方針です。ただし、台湾での2nm量産開始よりも数年遅れているため、当面は米国企業が台湾からの輸入に依存する期間が続きます。
半導体は現時点で関税の対象外、今後の動向に注目
TSMCが生産する半導体やその製造装置、またPCやスマートフォンなどは、ホワイトハウスが計画している関税措置の対象からは現時点で除外されています。しかし、米国商務省は1962年通商拡大法232条に基づき、国家安全保障上の観点から半導体への関税導入の是非を調査しており、今後の政策変化によってはTSMCのグローバル戦略に影響が及ぶ可能性があります。
投資家にとっての注目ポイント
・TSMCは中国依存度を下げつつ米国市場での展開を強化中
・米国での製造能力拡大が進んでおり、長期的にはサプライチェーンの多極化が期待される
・規制強化と同時に、先端技術を有する企業への需要は継続
・関税政策の動向には引き続き注視が必要
米中の摩擦が続く中、TSMCのように柔軟な対応を取る企業は、変動の激しい半導体市場においても成長の余地を持ち続けています。今後の米国での製造拡大とグローバルな顧客基盤が、同社の中長期的な株価上昇を支える要素となると見られます。
*過去記事はこちら TSMC