アマゾン・ドット・コム(AMZN)は2025年6月11日、ペンシルベニア州の核発電所から長期的に電力を調達する新たな契約を発表しました。契約相手は発電事業者のタレン・エナジー(TLN)で、この電力は、アマゾンが同州で進めている総額200億ドル規模のデータセンター投資計画を支える重要な資源となります。
物議を醸した旧契約を再構築、「メーターの裏側」から「表側」へ
今回の契約は、2023年に締結され批判を受けた旧契約の再構築版です。以前の契約では、アマゾンが発電所から直接電力を得る「ビハインド・ザ・メーター(メーターの裏側)」方式を採用し、地域電力網に貢献しない点が問題視されました。これにより、電力会社エクセロンや連邦エネルギー規制委員会(FERC)から批判を浴び、新たな規制導入の動きも起こっていました。
しかし、今回の新契約では、2026年から「フロント・オブ・ザ・メーター(メーターの表側)」方式に移行する方針が示されました。これにより、発電所は引き続き地域電力網に接続され、アマゾンは送電・配電ネットワークの維持コストを負担する形になります。
地域住民と政治家への配慮が評価、発電能力の増強も視野に
この新たな方式は、地元政治家や住民からの評価も高まっています。PPLエレクトリック・ユーティリティーズは、大口需要家であるアマゾンがネットワーク維持費を多く支払うことで、一般家庭の電力料金(送電部分)が低下する可能性があると説明しています。
また、アマゾンとタレンは今後、原子炉の追加設置など発電能力の強化も検討しています。ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ知事も、「迅速な許認可対応を進める」と前向きな姿勢を示しました。
リーブス・アセット・マネジメントのポートフォリオマネージャーであるロドニー・レベロ氏は、「この再構築された契約は政治的な問題を完全に解決し、アマゾンはインフレの元凶と見なされるリスクを回避できた」と高く評価しています。
データセンターによる電力需要増、全米で課題に
AI検索や生成AIの普及により、データセンターの電力消費が急増しています。AI検索は従来型検索の10倍以上の電力を消費するとされており、これが住民の電力料金上昇の一因になっています。
電力監視機関「モニタリング・アナリティクス」によると、2024年の電力容量オークションでは、データセンターの増加により価格が9倍に跳ね上がったと報告されています。ニュー・ジャージー州のボブ・スミス上院議員も、「電気料金の危機が迫っている」と警鐘を鳴らしています。
他のテック大手も核電力に注目、エネルギー調達の新潮流
アマゾン以外にも、メタ・プラットフォームズ(META)は2027年からイリノイ州の核発電所から電力を調達する契約を締結。これにより州の補助金支出が不要になる可能性も示唆されています。グーグル親会社のアルファベット(GOOGL)も、地域住民に負担をかけない電力調達を目指しているとしています。
投資家が注目する電力株、政治対応力が成長の鍵
タレン・エナジーやビストラ(VST)、コンステレーション・エナジー(CEG)といった電力企業は、バーチャス・リーブス・ユーティリティーズ(UTES)ETFに組み込まれており、2025年のパフォーマンスはS&Pユーティリティ指数を上回る水準を記録しています。今後も、大手テック企業との契約を結び、政治的リスクを回避できる電力企業には、投資家の関心が集まりそうです。