米国の防衛・航空関連サプライヤーであるクレーン(CR)が、原子力事業の拡大に向けて大きな一歩を踏み出しました。2025年6月9日、同社はベーカーヒューズ(BKR)から「プレシジョン・センサー&インスツルメンテーション(PSI)」事業を約10億ドルで買収すると発表しました。
この買収によって、投資家から注目を集めている原子力関連ビジネスへのクレーンの関与が強化されます。特に、人工知能(AI)データセンターの電力需要が高まる中、二酸化炭素を排出しない原子力が注目されており、投資家にとっても重要なテーマとなっています。
原子力分野の売上が倍増
クレーンは、センサー技術、温度制御、油圧技術などを中心に事業を展開しています。2024年の売上は21億ドルで、そのうち約9億ドルが航空・電子部門から、残りがプロセスフロー技術部門からのものでした。
今回の買収対象であるPSIは、原子力関連の製品ラインを多数保有しており、既存の事業と高い親和性を持っています。ドイツ銀行のアナリストであるスコット・ドイシュル氏は、「PSIの取得により、クレーンの原子力関連売上はプロセスフロー部門の中で倍増し、全体売上の約10%を占めることになる」と分析しています。
原子力関連銘柄への関心が高まる背景
AI分野の急成長により、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドットコム、アルファベットなどの大手IT企業が建設するデータセンターの電力需要が急増しています。その中で、炭素を排出しないエネルギー源として原子力発電が再評価されています。
その影響もあり、原子力関連企業であるGEベルノバ(GEV)、ニュースケール・パワー(SMR)、コンステレーション・エナジー(CEG)、カメコといった企業の株価は、過去12か月で平均150%近く上昇しました。特に利益を出している企業は、2025年の予想利益ベースで平均55倍という高い株価収益率(PER)で取引されています。これは、S&P500の平均PERである約23倍を大きく上回ります。
クレーン株にも追い風
クレーンの株価は過去12か月で約31%上昇しており、現在のPERは約34倍です。この上昇は、商業航空の回復という好材料による部分もあります。なお、同じGEグループのGEエアロスペース株は、55%上昇し、予想PERは約44倍です。
ドイツ銀行のドイシュル氏は、「今回の買収により、クレーンは本格的に原子力テーマに参入する企業の一つとして位置付けられる」と指摘しています。さらに、「今回の買収は、今後の業績予想の上方修正やバリュエーションの引き上げにもつながる可能性があり、クレーンにとって事業変革の次のステージとなる」との見解を示しています。
同氏はクレーン株を「買い」と評価しており、目標株価を226ドルに設定しています。ファクトセットのデータによると、カバレッジしているアナリストのうち73%が同社株を「買い」と評価しています。これはS&P500銘柄の平均である約55%を上回る水準です。
アナリストの平均目標株価は198ドルとなっており、現在の株価185.5ドル(6月10日午後時点)から7%の上昇余地があると考えられています。
今後の注目ポイント
クレーンによる今回の買収は、AIインフラと環境対応の両方に向けた長期的な投資テーマに合致しており、投資家にとって注目すべき動きです。原子力分野の売上構成比が2桁に達することで、同社株は従来以上に「テーマ型投資」の対象として認識されやすくなります。
今後の業績発表や買収シナジーの進捗が、さらなる株価上昇のカタリストとなる可能性があり、引き続き注目が集まります。