2025年6月、AIクラウド企業のコアウィーブ(CRWV)の株価が、IPOからわずか3カ月で約4倍に急騰し、注目を集めています。しかしその一方で、同社の高水準の負債や企業評価に対し、専門家からは懸念の声も上がっています。
株価は下落、アナリストは慎重な評価を維持
6月10日(火)、コアウィーブの株価は4.4%下落し、終値は154.9ドルとなりました。この下落は、D.A.デビッドソンのアナリスト、ギル・ルリア氏とアレクサンダー・プラット氏が、同社株に対する「アンダーパフォーム(売り相当)」評価と、目標株価36ドルをあらためて提示したことが背景にあります。
成長の裏に潜む巨額の負債
コアウィーブは2025年3月にナスダック市場に上場し、5月には負債投資家から20億ドルを調達しました。調達資金は、マイクロソフト(MSFT)、オープンAI、メタ・プラットフォームズ(META)、IBMといった大手顧客向けのAIコンピューティングインフラ拡張に充てられています。
直近の四半期決算では、短期債務38.4億ドル、長期債務49.5億ドルを計上しており、AIデータセンターやGPUなどの設備投資に多額の資金が投じられています。
「契約前提型」ビジネスモデルへの疑問
同社は「テイク・オア・ペイ(利用の有無にかかわらず支払い義務が生じる)」契約を導入し、その契約に基づく将来の収益を担保にインフラ整備資金を借り入れています。
最高開発責任者のブラニン・マクビー氏は、「インフラを先に建てて顧客を待つのではなく、契約を締結してから設備投資を行っている」とバロンズの取材に語っています。
しかし、D.A.デビッドソンのアナリスト陣は、このビジネスモデルに懐疑的です。同社が投資家向けに提示した契約例は、「むしろリスクを際立たせるものだ」と指摘しています。
自己資本の不足と高金利の借入
提示された契約モデルでは、インフラ投資に対して15%の自己資本を投じているとされていますが、ルリア氏とプラット氏は「実際には自己資本が不足しており、高金利の借入に依存せざるを得ない」と分析しています。
特に、年9.5%という高金利の借入が前提となる場合、株主リターンはほぼゼロに近くなり、投資妙味は極めて低いと評価しています。
「残存価値75%」という前提にも疑問
コアウィーブは契約終了後のGPUなどの資産について、契約総収益の75%相当の残存価値を見込んでいます。これは、現在の市場価格に基づいた保守的な見積もりだと関係者は説明しています。
しかし、D.A.デビッドソンの分析によれば、4年後のGPUの価値は現在の4分の1以下に落ち込む可能性が高く、「75%という残存価値の前提は、実現可能性が極めて低い」と厳しく批判しています。
債権者に有利な資本構成との指摘
最も厳しい見方として、ルリア氏とプラット氏は「コアウィーブの企業価値の大部分は債権者に帰属しており、株主には実質的な価値が残らない」と指摘しています。
ただし、ファクトセットによると、同社株に対して「売り」またはそれに相当する評価をしているのは、D.A.デビッドソンを含むわずか2社です。11社が「ホールド」、7社が「買い」としており、強気な見方も一定数存在します。
高成長と高リスクのはざまで、投資家に求められる慎重な判断
AIインフラ市場の急拡大により、コアウィーブのような成長企業には大きな期待が寄せられています。しかしその成長の裏で、急速に膨らむ債務や、契約モデルの持続可能性に対する不安は、今後の株価に大きな影響を及ぼす可能性があります。
投資家にとっては、企業の将来性だけでなく、資本構成や収益モデルの現実性にも目を向けた慎重な判断が求められています。