2025年6月、フロリダ大学のアレハンドロ・ロペス=リラ助教授が主導する研究が、ウォール街に波紋を広げています。ChatGPT、Grok、ディープシークという3つのAIモデルを活用した株式投資の実験が、プロのアナリストやポートフォリオマネージャーの仕事に影響を及ぼす可能性を示しているからです。
AIはニュースの見出しから株価を予測できるのか?
実験の出発点は単純なものでした。ロペス=リラ氏は、ChatGPTに企業ニュースの見出しを読み取らせ、それが株価にとってポジティブかネガティブかを判断させました。使われたデータは、2021年10月以降の約13万件のニュースヘッドラインで、ChatGPTはこれらを分析し、買い・売り・保留の判断を行いました。
このシミュレーションは実際の取引ではなく、過去の株価パフォーマンスと照らし合わせたものでしたが、結果は驚くべきものでした。ChatGPT(GPT-4)は、2021年10月から2023年12月の期間において、日次平均リターン0.38%、累積リターン650%以上を記録したのです。
現実の投資アプリ「Autopilot」での応用
この成果を踏まえ、ロペス=リラ氏は2023年9月から実際の投資アプリ「Autopilot」でAIによるポートフォリオ運用を開始しました。ポートフォリオはS&P500構成銘柄を中心に、株式10銘柄とETF5銘柄で構成され、月次でリバランスされます。使用されたモデルはOpenAIのChatGPT(o1 proおよびo3)、xAIのGrok 3、ディープシーク R1です。
ロペス=リラ氏はPythonを用いて、マクロ経済データ、企業業績、最新株価などをAIに提供し、1〜100のスコアで銘柄を評価させました。その結果を基に、AIが自動的に組入銘柄と比率を決定しました。
ChatGPTのポートフォリオ(2025年4月〜5月)
ChatGPT(o1 pro)が選定した15銘柄の中には、アマゾン・ドット・コム(AMZN)、モノリシック・パワー・システムズ(MPWR)、アメリカン・タワー(AMT)、ブラックロック(BLK)、チポトレ・メキシカン・グリル(CMG)などが含まれていました。また、SPDR S&P500 ETF(SPY)やiShares TIPS(TIP)といったETFも組み込まれていました。
注目すべきは、モデルが保守的な市場環境を理由に、全体の10%を現金として確保したと自己申告した点です(ただし誤差の可能性もあり)。
Grokのポートフォリオと特徴
Grokは、アメリカン・タワー、ブラックロック、プルデンシャル・ファイナンシャル(PRU)、シンタス(CTAS)、ウェイスト・マネジメント(WM)など、安定収益を見込める企業やディフェンシブセクターのETFを多く選定しました。金(GLD)や長期債(TLT)などの安全資産への配分も大きく、リスク回避型の構成が特徴です。
ディープシークのアプローチ
ディープシークは、TJX(TJX)、ウェイスト・マネジメント、プログレッシブ(PGR)、ブラックロック、メルク(MRK)などを選び、消費者ディフェンシブや医療、インフラ関連銘柄に重点を置いています。エヌビディア(NVDA)のような高成長ハイテク株にはあまり依存せず、安定配当や堅調な事業モデルに重きを置いた選定となりました。
運用成績の比較(2023年〜2025年)
- ChatGPT(2023年9月〜2025年5月)
累積リターン:+43.5%(S&P500は+34.7%)
→ 安定的な超過リターンを実現 - Grok(2025年2月〜)
累積リターン:+2.3%(S&P500は-2.2%)
→ 市場平均を若干上回る - ディープシーク(2025年2月〜)
累積リターン:-0.25%(S&P500は-0.93%)
→ 相場下落局面でも健闘
AIが投資家にとって代わる日は来るのか?
AIの活用は今後さらに進むと見られますが、現在はまだ人間の監視やデータ供給が欠かせません。ロペス=リラ氏は「AIは極端なエラーを起こす可能性があり、常に人間の介在が必要」と警鐘を鳴らしています。
また、これらのモデルは月次でしかリバランスを行わないため、市場の急変には対応が遅れるという課題もあります。
AIがプロのポートフォリオマネージャーを完全に置き換えるには時間がかかるかもしれませんが、その補完的な役割はすでに現実のものとなりつつあります。