近年停滞していた宇宙関連企業のIPO(新規株式公開)が、2025年に入り再び動き始めました。カーマン・ホールディングス(KRMN)やボイジャー・テクノロジーズ(VOYG)の上場計画、そしてイーロン・マスク氏率いるスペースXとその通信衛星ネットワーク「スターリンク」への期待が投資家の関心を集めています。
伝統的なIPOとしては4年ぶり、ボイジャーとカーマンが先陣
IPO専門の運用会社ルネッサンス・キャピタルのシニアストラテジスト、マット・ケネディ氏によれば、カーマン・ホールディングスとボイジャー・テクノロジーズは、2021年以来初となる宇宙関連の伝統的IPO企業です。
ボイジャー・テクノロジーズはデンバーに本社を置き、防衛・宇宙関連の技術開発を行う企業です。NASDAQへの上場を予定しており、ティッカーは「VOYG」。企業評価額は最大16億ドルに達する見込みで、NASAが最大の顧客とされています。
SPACからの転換点──市場と投資家心理の変化
ここ数年の宇宙企業の上場は、ほとんどがSPAC(特別買収目的会社)によるものでした。SPACは成長初期の企業が好んで活用する手法でしたが、2022年以降は過大評価への懸念から投資家の熱が冷めていました。
しかし現在、ロケット・ラブ(RKLB)、ASTスペースモバイル(ASTS)、インテュイティブ・マシーンズ(LUNR)といったSPAC上場組が株価を大きく伸ばしており、宇宙産業全体に対する投資家の期待が再び高まりつつあります。
- ロケット・ラブ:過去1年で株価が513%上昇
- ASTスペースモバイル:同225%上昇
- インテュイティブ・マシーンズ:同134%上昇
スターリンク上場の可能性とマスク氏のスタンス
スペースXの子会社であるスターリンクについては、長らくIPOの噂が絶えません。マスク氏はブルームバーグのインタビューで「スターリンクを将来的に上場させる可能性はあるが、今は急いでいない」と述べています。
同社の出資者であるフォーチュナ・インベストメンツCEOのジャスタス・パーマー氏は、「マスク氏は政府案件から距離を置き、テスラ(TSLA)など他の事業に集中すべき時期にある」と語り、スターリンクの上場は当面見送られるとの見解を示しました。
IPO市場の現状と今後のタイミング
2025年初頭はIPO活動が活発でしたが、米中貿易摩擦や関税問題の影響で一時的に減速しました。PwCのデータによると、上場件数は堅調を維持しているものの、投資家は慎重な姿勢を崩していません。
一方で、ルネッサンスIPO ETF(IPO)は過去3か月で8.1%上昇し、S&P500指数(SPX)の3.5%を上回るパフォーマンスを記録しています。パーマー氏は「本格的なIPOブームは2026年以降になる」と予測し、スターリンクの上場は「2027年が現実的なタイミング」としています。
スペースXが直面する上場の壁
プロキュアAMのCEO、アンドリュー・チャニン氏は「スペースXは極めて野心的なプロジェクトを多数抱えており、上場企業となることで機動性が制限される」と指摘しています。
実際、マスク氏がTwitterを非公開化して「X」に転換した例のように、外部からの干渉を避けたいという姿勢はスペースXにも共通しています。さらに、同社は私募市場から多額の資金調達に成功しており、2024年の株式売却では企業価値が約3,500億ドルに達したと報じられています。こうした背景から、当面はIPOを急ぐ必要はないと見る向きもあります。
宇宙ビジネスの夜明け──次のステージへ
カーマン・ホールディングスやボイジャー・テクノロジーズの上場は、宇宙産業における新たなIPOサイクルの始まりを象徴しています。これらの企業の成功は、将来的なスターリンクやスペースXの上場にも大きな影響を与える可能性があります。
2025年のIPO市場とイーロン・マスク氏の動向から、今後も目が離せません。宇宙産業は今、次なる成長ステージへと進もうとしています。