世界の半導体製造装置市場で事実上の独占状態にあるオランダのASMLホールディング(ASML)ですが、株式投資先としての魅力には慎重な見方が浮上しています。バークレイズのアナリストであるサイモン・コールズ氏は6月3日、ASMLの投資判断を「オーバーウエイト」から「イコールウエイト」に引き下げ、目標株価も従来の770ユーロから650ユーロ(約740ドル)に下方修正しました。
成長期待に不透明感、2026年は1%成長の見通し
コールズ氏は、2026年におけるASMLの成長期待について「リスクがある」と指摘しています。同氏のモデルでは1%の成長を見込んでいるものの、上下いずれの方向にもリスクが存在すると述べています。現状から注文状況が大幅に改善しなければ、2026年の成長に安心感を持つのは難しいという見解です。
中国からの売上急減、米国の輸出規制が影響
ASMLは2023年から2024年にかけて中国向け売上が大きく伸びましたが、2025年に入ってその勢いは減速しています。さらに、米国による対中輸出規制が強化されていることから、2026年以降も中国企業向けの出荷台数が制限される可能性が高まっています。
このような地政学的リスクは、ASMLの今後の売上構成に大きな影響を及ぼす要因となっています。
EUV装置の売上は市場予想を下回る可能性
ASMLが開発・供給する極端紫外線リソグラフィー(EUV)装置についても、売上が市場予想を下回る可能性が出ています。コールズ氏の予測では、2026年のEUV売上はコンセンサスを7%下回ると見込まれています。
その背景には、サムスン電子やインテル(INTC)による設備投資の抑制があります。両社は当面、既存のリソグラフィー装置を活用し続ける見込みであり、新規投資が再開されるとしても最短で2027年以降になる可能性が高いとされています。
TSMC依存の強まりとHigh NA EUVの課題
ASMLは現在、TSMC(TSM)への依存度を高めています。しかし、TSMCはASMLの最新リソグラフィー装置であるHigh NA EUVシステム(1台あたり3.5億ユーロ超)の採用に慎重な姿勢を示しており、既存の装置での先端チップ製造を継続する方針を示唆しています。
このため、コールズ氏は2026年のHigh NA EUVシステムの出荷台数を3台、2025年は5台と見積もっています。ロジック半導体業界全体での本格的な導入は、少なくとも2028年まで遅れる可能性があるとの指摘もあり、ASMLの短期的な成長シナリオに対する懸念が高まっています。
長期的には年平均11%の成長を維持か
コールズ氏は短期的なボラティリティを警戒しつつも、2026年から2030年にかけてのASMLの年平均売上成長率(CAGR)を11%と見込んでおり、長期的な成長ポテンシャルに対しては引き続き前向きな姿勢を保っています。ただし、今後数年間は市場の期待とのギャップや不安定な需要見通しによって、株価が揺れ動く場面も想定されます。