2025年6月3日に開催された台湾積体電路製造(TSMC、ティッカー:TSM)の株主総会で、CEOの魏哲家(C.C. Wei)氏が関税の影響、AI半導体市場の展望、そしてグローバル戦略について見解を示しました。
関税の影響は限定的、ただし間接的な懸念も
魏氏は「関税は通常、輸入業者が負担するものであり、TSMCの事業に直接的な影響はない」と説明しました。一方で、関税が世界経済の減速や物価上昇を引き起こす可能性についても言及し、「結果的に需要を冷やすリスクがある」と警鐘を鳴らしました。
AI半導体需要が引き続き成長を牽引
TSMCの最大顧客であるアップル(AAPL)やエヌビディア(NVDA)がサプライチェーンの混乱に直面する中でも、AI分野への需要は引き続き強いと魏氏は述べました。同社は2025年の売上と利益のいずれも過去最高を更新する見通しを示しています。
台湾の調査会社DigiTimesによると、AIや高性能コンピューティング(HPC)向け半導体に加えて、スマートフォン向けプロセッサーの需要回復や、関税前の駆け込み在庫調整などが、台湾のファウンドリー業界全体の売上を押し上げていると報告されています。
安全性と知的財産保護への取り組み
魏氏は、過去にTSMCの工場で発生した労働者の事故について「生命は何よりも大切。安全を最優先に取り組む」と述べ、謝罪の意を表明しました。
また、海外進出に伴う技術流出の懸念については、「当社の技術は1万人以上の研究者と数百人のエンジニアによって守られており、簡単に盗まれるようなものではない」と強調しました。
アメリカと中東での事業展開について
アリゾナ工場の建設が難航している理由について、魏氏は「熟練労働者の不足が最大の課題」と説明。トランプ大統領から「5年以内に1000億ドルの投資が可能か」と問われた際には、「非常に困難」と答えたことを明かしました。
一方で、中東での新工場建設に関する一部報道については否定し、「中東における半導体産業の基盤づくりは容易ではない」と述べました。
TSMCの強気な姿勢が示す市場の方向性
AIと半導体は、2025年においても市場成長の主要なドライバーであり続けています。TSMCの強気な見通しは、テクノロジー株に投資する個人投資家にとっても注目すべきヒントといえるでしょう。地政学的なリスクや政治的な不確実性が高まる中、魏氏の発言からは、サプライチェーンの複雑さと、それを克服しようとする企業努力が鮮明に浮かび上がっています。
*過去記事はこちら TSMC