2025年5月29日、トランプ大統領による一連の関税政策を巡って、アメリカの司法判断が大きく動きました。米国国際貿易裁判所が関税徴収の差し止めを命じた直後、連邦巡回控訴裁判所がこの差し止めを一時的に停止する決定を下し、関税の一部が引き続き有効となる事態となりました。
米投資情報誌「バロンズ(Barron’s)」がこの動向を詳しく報じており、この記事ではその内容を紹介します。
訴訟の背景と控訴裁の判断
対象となった訴訟は、複数の企業および州政府によって起こされたもので、特にワイン輸入業者やオレゴン州、アリゾナ州など12州が参加しています。控訴裁は、関税差し止めの判断が最終的に有効かどうかを審議するまでの間、現状維持を認める「一時停止」を命じました。これにより、関税徴収が直ちに止まることはなくなりました。
IEEPAの法的リスクと今後の選択肢
今回争点となったのは、トランプ政権が関税導入の根拠として用いた「国際緊急経済権限法(IEEPA)」です。この法律は本来、安全保障上の緊急性を前提とするもので、貿易政策の根拠としては不安定とされていました。
バロンズによれば、仮にこの根拠が最終的に否定された場合、政権は他の法律、たとえば通商法第122条や301条、大恐慌時代の第338条など、よりプロセスが必要な法的手段へと舵を切る可能性があります。
市場と企業への影響
この法廷判断は、企業と市場にも波紋を広げています。教育用玩具メーカーなど中小企業からは、「関税がどうなるのか分からない」「価格設定や事業計画に支障が出る」といった不安の声が上がっているといいます。
また、S&P500指数は一時的に上昇したものの、不確実性の高まりを受けてその後はやや反落する動きとなりました。
今後の注目点
ホワイトハウスは今回の控訴裁の判断を「米産業と労働者にとっての前進」と歓迎する一方で、必要に応じて最高裁への上訴も視野に入れていると伝えられています。トランプ政権が進める新たな関税計画(半導体や医薬品などへの追加関税)にも注目が集まっており、夏以降の通商政策の展開が一段と注視されます。