2025年5月29日、クラウドソフトウェア大手のセールスフォース(CRM)の株価が大きく下落しました。第1四半期決算の内容自体は決して悪くなかったものの、市場の反応は厳しく、同社株は一時6%以上の下落を記録し、ダウ平均に対しても大きなマイナス要因となりました。
売上・利益ともに予想超え、見通しも強気
セールスフォースの第1四半期の調整後1株利益(EPS)は2.58ドルとなり、ファクトセット調べの市場予想である2.55ドルを上回りました。前年同期の2.44ドルからも増加しています。売上は98.3億ドルで、こちらも予想の97.5億ドルを超え、前年比で7.6%の増加となりました。
第2四半期についても強気の見通しが示され、通期の2026年度ガイダンスも上方修正されています。
「無難」な決算、しかし将来への懸念が浮上
バーンスタインのアナリスト、マーク・マードラー氏は、今回の決算を「悪くはないが素晴らしくもない、インライン(予想通り)」と評価しました。同氏は引き続きセールスフォース株に対して「アンダーパフォーム」の評価を維持していますが、目標株価は243ドルから255ドルに引き上げました。
一方で、同氏は成長加速の兆しが見られない点を懸念材料として挙げており、新たな人材採用や買収(特にインフォマティカの約80億ドル規模の買収)によるコスト増が今後の課題になると分析しています。
株価は決算発表翌日に急落、年初来では20%以上の下げ
今回の決算発表直後は時間外取引で若干の上昇を見せたものの、翌日には6%以上の下落を記録しました。これは2024年5月30日に記録した約20%の下落以来、1年ぶりの大幅安となります。
年初来ではすでに23%もの下落となっており、市場では「成熟した市場における成熟企業」として、セールスフォースへの期待値が過剰だったとの声も出ています。
エージェントフォースへの期待と不信感
セールスフォースが進める生成AI戦略「エージェントフォース」についても、市場の見方は分かれています。グッゲンハイムのジョン・ディフッチ氏は、決算説明会で「成長」という言葉が頻出したことに触れ、「成長が実際のサブスクリプション収益につながるかどうかは不透明だ」と述べました。
また、モネス・クレスピ・ハートのブライアン・ホワイト氏も「ポテンシャルはあるが、成長の勢いは物足りない」と指摘し、競争環境の厳しさや景気の不安定さを警戒しています。
投資家は「様子見」、信頼回復には時間が必要
一方で、エバコアISIのカーク・マターン氏は前向きな見解を示しています。同氏は「2025年度下半期には株価の再評価が期待できる」とし、目標株価を360ドルから350ドルにやや引き下げたものの、依然として「アウトパフォーム」の評価を継続しています。
マターン氏は、サブスクリプション収益の成長率が2026年度末にかけて10%程度に回復する余地があると見ており、生成AI製品群による反転の可能性に注目しています。
ただし、市場の大半はまだ「静観モード」にあるようです。米国みずほ証券のジョーダン・クライン氏は、セールスフォースがいまだ「買い」対象として機関投資家に十分な信頼を得ていないと述べており、ガイダンスの上方修正が米ドル安による影響にすぎないと見る投資家も少なくありません。
今後のカギは成長の「実証」
今回の決算により、セールスフォースが置かれた立場は明確になりました。決算そのものは安定していても、今後の成長戦略、特にエージェントフォースを含む生成AI領域における具体的な成果が求められています。
成長率の再加速と信頼の回復には、少なくとも数四半期の「証明」が必要となりそうです。セールスフォースの真価が問われるのは、これからです。