2025年5月28日、アメリカ合衆国国際貿易裁判所は、ドナルド・トランプ大統領による大部分の世界的な関税措置を違法と判断し、恒久的に差し止める判決を下しました。この決定は、トランプ氏の経済政策の柱の一つに大きな打撃を与える結果となりました。
民主党主導の州と中小企業が勝訴
ニューヨーク・マンハッタンの貿易裁判所において、3人の判事が全会一致で、トランプ大統領の緊急法適用は誤りであるとする原告の主張を支持しました。判決では、10日以内に命令を履行するよう政権に指示が出されましたが、具体的な撤回手順は明記されませんでした。
対象となるのは、世界的なフラット関税、中国などに対する追加関税、さらにはフェンタニル関連として中国、カナダ、メキシコに課された関税です。ただし、鉄鋼、アルミニウム、自動車への関税など、通商拡大法(Section 232)や通商法(Section 301)に基づく関税は影響を受けません。
判決直後に株式市場が反応
この判決を受け、ナスダック100先物は最大2.1%上昇しました。ドルは上昇し、円は下落しました。米国株市場にとって好材料と受け止められた形です。
緊急経済権限法の乱用を否定
トランプ大統領は、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に、貿易赤字や麻薬密輸を「国家的緊急事態」と主張して関税を発動してきました。しかし裁判所は、こうした主張は法律の想定を逸脱していると判断しました。判決は「サマリー・ジャッジメント(略式判決)」であり、審理を経ずに原告の完全勝訴が確定しました。
上訴へ、最終決着は最高裁か
米司法省は連邦巡回控訴裁判所への上訴を即座に表明しました。最終的には連邦最高裁判所での判断に委ねられる可能性があります。現時点では、控訴審で差し止めが一時的に解除されない限り、対象の関税は無効となります。
政治的・法的影響も拡大
この判決は、トランプ政権下で進められた一連の大統領令に対する訴訟の中でも最大級の敗北となりました。連邦職員の大量解雇、市民権制限、議会承認済みの支出削減といった他の施策も、現在複数の訴訟に直面しています。
ホワイトハウス報道官クシュ・デサイ氏は、「選挙で選ばれていない判事が国家緊急事態への対応を決めるべきではない」と批判しました。また、「アメリカの貿易赤字が防衛産業基盤を含め、国家経済に重大な損害を与えている」とも述べました。
州政府や保守系団体が提訴
ニューヨーク州などの民主党主導州は、これらの関税が消費者に対する大規模な増税であると主張し、議会の権限を侵害していると訴えました。さらに、カナダやメキシコに対する麻薬密輸名目の関税は、実際にはその問題に直接関係する商品を対象としていないと指摘しました。
保守系団体「リバティ・ジャスティス・センター」も中小企業を代表して提訴し、「貿易赤字は緊急事態ではなく、法律上も関税を正当化する要因ではない」と主張しました。
今後の焦点は議会と最高裁の動き
議会では、トランプ大統領に「報復関税権限」を与える法案も検討されてきましたが、今回の判決を受けて前進の可能性は薄れています。裁判所は「この関税が原告に違法であるならば、すべてに違法である」と述べ、限定的な救済措置ではなく、包括的な差し止め命令を発しました。
ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官は「この関税は国民に対する巨大な税負担であり、インフレや雇用喪失を招くものであった」とコメントしました。
この判決の影響は、今後の米中貿易交渉や大統領権限のあり方に大きな影を落とすことが予想されます。関税を巡る法的闘争は、引き続き世界の注目を集めそうです。