2025年5月28日、アメリカの国際貿易裁判所は、トランプ大統領が今年導入した「解放記念日(Liberation Day)」関税の一部、6.7%分の課税措置について違法と判断し、差し止めを命じました。この判決は、一見すると大統領の貿易戦略にとって大きな打撃のようにも見えますが、ゴールドマン・サックスの分析によると、実質的な影響は限定的とされています。
ゴールドマン・サックスの見解:「代替手段で補填可能」
ゴールドマン・サックスの米国チーフ政治エコノミスト、アレック・フィリップス氏は顧客向けメモの中で、「今回の判決はトランプ政権の関税計画にとって後退ではあるが、多くの主要な貿易相手国にとって最終的な影響を変えるものではない」と述べています。
政権側は、他の関税制度を活用することで失われた税収を補うことが可能です。例えば、国家安全保障を根拠に鉄鋼やアルミニウム、自動車などに課される「セクション232」による関税措置が挙げられます。もし現在進行中の調査すべてが25%の関税として発動された場合、それだけで7.6%の関税上乗せが実現すると同社は予測しています。
セクション122・セクション301の活用も視野
ゴールドマン・サックスは、トランプ大統領が他にも「セクション122」や「セクション301」などの手段を選択肢として持っていると指摘しています。
セクション122では、最長150日間、最大15%の関税を課すことが可能です。また、セクション301による報復関税措置も考えられますが、発動までに時間がかかるというデメリットがあります。
裁判所の判断と政権の対応
今回の判決は、マンハッタンにある米国国際貿易裁判所が、中小企業や民主党主導の州の訴えを受けて下したものです。裁判官3名からなるパネルは、トランプ政権が緊急事態法を誤って使用して関税を発動したと判断し、10日以内に関税徴収を停止するよう命じました。ホワイトハウスはすでに控訴を行っています。
財政政策への影響は限定的か
フィリップス氏は、関税による歳入はそもそも議会で議論されている財政支出パッケージのコストと直接的にリンクしていなかったとし、今回の判決が財政政策全体に与える影響は小さいと見ています。
しかし、今回差し止められた関税は年間で約2,000億ドルの歳入をもたらすと見られており、これは来年度に想定されている財政赤字の増加額とほぼ同規模です。政権が別の方法で同程度の関税を再実施することができれば、この収入の大部分は引き続き確保される可能性があるとしています。
債券市場の反応
米30年国債の利回りは、財政リスクに対する感応度を示すスワップとのスプレッドを維持し、-89ベーシスポイント付近で推移しました。市場は今回の裁判所の判断が短期的な混乱をもたらす可能性はあるものの、長期的には関税収入が維持されるとの観測もあるようです。