エヌビディアが技術を開放?AI時代を制する“新たな囲い込み戦略”とは

2025年5月、台北で開催されたComputex 2025において、エヌビディア(NVDA)は業界を驚かせる新たな一手を打ち出しました。同社が誇る高速インターコネクト技術「NVリンク・フュージョン」を外部企業に開放するというのです。これは単なる技術公開ではなく、AIインフラ市場での覇権を狙う“戦略的な囲い込み”の再設計と捉えられます。

NVリンク・フュージョンとは何か?

NVリンク・フュージョンは、エヌビディアのGPUと他社製のCPUやAIアクセラレータを直接かつ高効率に接続できるようにする仕組みです。従来、エヌビディアの強みは、そのハードウェアとソフトウェアの密な統合にありました。最高のパフォーマンスを得るには、同社製品でシステム全体を揃える必要がありました。

しかし、NVリンク・フュージョンにより、その「閉鎖的な強み」が「開放的な支配力」へと変貌します。他社が自社開発のプロセッサでAIプラットフォームを構築しても、エヌビディアのGPUとNVリンクなしには成立しない――そんなエコシステムが形成されようとしているのです。

主要パートナー企業とその動向

この新戦略に対し、クアルコム(QCOM)や富士通、メディアテックといった主要企業が即座に反応しました。

  • クアルコムは、OryonベースのCPUとAIアクセラレータをNVリンク経由でエヌビディアのGPUと接続することで、データセンター市場へ本格参入を狙います。
  • 富士通は、2ナノメートルのArmアーキテクチャ「Monaka」を活用し、日本独自のAIインフラ構築に取り組みます。
  • メディアテックを含むその他の半導体企業も、AIトレーニング・推論向けに最適化されたカスタムチップの開発を進めています。

これら企業にとって、NVリンク・フュージョンは、エヌビディアと競争しながらも協調できる“安全な進出路”と映っているのです。

台湾との戦略的連携

エヌビディアはさらに、台湾における存在感を強化しています。フォックスコンおよび台湾政府と連携し、ブラックウェル・チップを1万個搭載するAIスーパーコンピューターの構築を発表しました。このプロジェクトはTSMCとして知られる台湾積体電路製造(TSM)の研究開発にも活用される予定で、地域のAIインフラを次のステージへと押し上げます。

加えて、エヌビディアは台湾にAI開発の新拠点を設立し、エイサーやエイスースと協力して高性能なデスクトップスーパーコンピューターの開発にも取り組んでいます。

囲い込みから“選ばれる基盤”へ

エヌビディアの狙いは明確です。完全なロックインモデルを保ち続けるのではなく、“開かれた中核”としての地位を確立し、どのベンダーが何を選ぼうとも最終的に「エヌビディアなしには成り立たない」状況を作り出すこと。これは、PC時代のインテルが築いた“インサイド戦略”にも通じるものがあります。

しかし、AIインフラ市場はより分散的かつ多極化しており、競合にはアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)やインテル(INTC)、さらには国家主導のAI戦略も含まれます。NVリンク・フュージョンの成否は、エヌビディアがソフトウェアとネットワーク領域での支配力をどこまで保ち続けられるかにかかっています。


エヌビディアは、まさに「門を開くことで砦を強くする」という現代的な戦略を打ち出しました。NVリンク・フュージョンがもたらす新たなAIエコシステムは、投資家にとっても業界にとっても、注目すべき大きな転換点となるかもしれません。

*過去記事「エヌビディアの「NVリンク・フュージョン」が示す、AI時代のデータセンター未来図

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