アップルのユーザーにとって、iPhoneやMacBookを他社製品に置き換えるのは難しいという共通認識があります。この「製品の乗り換えにくさ」は、アップル(AAPL)にとって非常に強力な競争優位性となっています。しかし、その強さにもかかわらず、アップルの株価はここ最近、大きな圧力に晒されています。
アップル株の下落と他の巨大テック株との違い
2025年5月のテクノロジー株の反発局面においても、アップルの株は恩恵を受けていません。今月だけで8%の下落を記録し、「マグニフィセント・セブン」の中で唯一マイナスを記録した企業となりました。年初来でも22%下落しており、グループ内で最もパフォーマンスが悪い状況です。
5月23日には関税を巡る懸念がさらなる売り圧力を呼び、株価は3%下落、8日連続の値下がりとなりました。
トランプ大統領の関税発言と投資家の視点
トランプ大統領は、アップルが製造をアメリカ国内に戻さなければ25%の関税を課すと警告しましたが、多くのアナリストはこの発言を過剰に心配する必要はないとしています。DAダビッドソンのテクノロジー調査部門責任者ギル・ルリア氏は、短期的なボラティリティがあっても、アップルのビジネスモデルや成長性には大きな影響はないと述べています。
アップルの製品は、エコシステムが非常に強固で、iPhoneを購入した人がMacBookを買い足すといった形で、顧客を囲い込む効果があります。また、関税が実際に発動されたとしても、そのコストは価格転嫁やサプライヤーとの調整で部分的に吸収可能です。
バリュエーションと成長率の比較
現在、アップルの12カ月先の予想株価収益率(P/E)は約25.9倍で、他の「マグニフィセント・セブン」株に比べて低水準です。ただし、予想される2年間の売上高年平均成長率(CAGR)は5.1%と、成長性はやや劣後しています。
企業名 | 予想P/E | 2年間のCAGR(予想) |
---|---|---|
テスラ(TSLA) | 141.6 | 10.8% |
アマゾン(AMZN) | 30.5 | 9.3% |
マイクロソフト(MSFT) | 30.2 | 13.9% |
エヌビディア(NVDA) | 27.7 | 39.7% |
アップル(AAPL) | 25.9 | 5.1% |
メタ・プラットフォームズ(META) | 23.7 | 13.5% |
アルファベット(GOOG) | 17.3 | 10.7% |
アップルの予想P/EはS&P500の平均(21.2倍)より高く、ITセクター(26.8倍)よりはやや低めとなっています。これに対し、ITセクター全体のCAGRは11.3%と、アップルの倍以上です。
AI分野での遅れと新たなリスク
ベアードのテッド・モートンソン氏によれば、アップルの最大の懸念は、Siriが「Apple Intelligence」との統合で遅れを取っている点です。生成AI技術で他社が革新的なサービスを提供すれば、アップルのシェアを奪われる可能性があります。特に、アルファベットがグーグルのPixelやサムスンとの提携を通じてAIを組み込む動きには要注意です。
このリスクを背景に、モートンソン氏はアップル株の比率を高めることを推奨しておらず、代わりにアルファベットのような成長性とバリュエーションのバランスが取れた銘柄に注目すべきと述べています。
今後の注目イベントと投資判断
アップルにとって次の重要なイベントは、6月9日に開催される世界開発者会議(WWDC)です。この場で「Apple Intelligence」を含む新技術の発表が期待されています。
現時点では、アップル株を保有している投資家は、短期的なネガティブなニュースに動揺せず、同社の中長期的な強みに目を向けることが重要です。特に、生成AIへの対応力が、今後のハードウェア販売やサービス事業の成長を左右する要因となります。
アップルは依然として優良企業であり、長期保有の価値はあるものの、リスクとリターンの観点からは他の投資先も検討すべき時期に来ているのかもしれません。
*過去記事はこちら アップル AAPL