量子コンピューティング業界で頭角を現しているイオンキュー(IONQ)は、半導体業界の巨人のような地位を目指しており、その歩みは非常に積極的です。同社のCEOであるニッコロ・デ・マシ氏は、「我々は量子の分野で、エヌビディアやブロードコムがクラシックGPUの分野で果たしている役割を担っている」と語っています。イオンキューは、クラウドを通じてアクセス可能な量子コンピューティングパワーを含む、ソフトウェア、ハードウェア、アプリケーションのフルスタックを提供しています。
フル機能の量子コンピューティング企業としてのイオンキュー
デ・マシ氏は、「当社は製造部門、顧客サービス、マーケティング、営業、エンジニア、物理学者、そしてアプリケーションチームを備えた完全な企業です」と強調しています。イオンキューは現在、時価総額約87.5億ドルで、上場している量子コンピューティング企業としては最大規模となっています。2番手にはディーウェーブ・クオンタム(QBTS)が約48.4億ドルで続いています。
株価急騰と業界全体への波及効果
イオンキューの株価は5月22日の米国市場の13:45の時点で37.7%上昇し、46.1ドルあまりで取引されています。これに伴い、ディーウェーブ、リゲッティ・コンピューティング(RGTI)、クォンタム・コンピューティング(QUBT)といった他の量子関連株もそれぞれ23%、26%、15%上昇しています。
学術研究から市場へ:イオンキューの歩み
イオンキューは、デューク大学の教授であるクリストファー・モンロー氏とキム・ジョンサン氏によって創設されました。彼らは、イオントラップ型量子コンピュータを研究室から市場に持ち出すというビジョンのもと、イオンキューを立ち上げました。2021年9月にはニューヨーク証券取引所に上場し、デ・マシ氏が率いるSPACを通じて上場を果たしました。
グローバル展開と戦略的買収
イオンキューは、グローバルなプレゼンスを拡大するために、複数のスタートアップや民間企業を買収してきました。最近ではスイスの量子暗号企業ID Quantiqueの支配株式を取得し、さらに衛星会社Capella、ボストン拠点のLightsyncなどを買収しています。また、スウェーデンの輸送会社Einrideとの提携を発表し、量子技術による次世代の物流最適化の可能性を探っています。
利益化への道と投資家の期待
イオンキューの課題の一つは、いまだ利益を出していない点です。投資家の中には、量子コンピューティングを投機的な投資対象と見なす向きもあります。前CEOのピーター・チャップマン氏は、2030年までに10億ドルの売上を達成し、利益を出すと述べていましたが、デ・マシ氏はそのような数値目標を避けつつも、2023年には1億ドルの累積受注を記録したと説明しています。
直近の四半期では、売上は760万ドルと前年と同水準であり、前四半期からは35%減少しましたが、市場予想の750万ドルは上回りました。四半期の損失は3,230万ドルで、前年の3,960万ドルからは縮小しています。通年では、7,500万ドル〜9,500万ドルの有機的売上を見込んでいます。
将来的な買収の可能性とAIとの融合
イオンキューの将来について、デ・マシ氏は大手テック企業による買収の可能性も示唆しています。「クラウドやAI・機械学習ビジネスを守るためには、イオンキューの優位性が必要になる。他社が先に手を打てば、その企業は競争力を失うことになる」と語っています。
イオンキューは今後も進化を続け、量子コンピューティング業界におけるエヌビディアのような存在になることを目指しています。