長年にわたり「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米国の主要テック銘柄を羨望のまなざしで見ていた投資家にとって、インターナショナル・ビジネス・マシーンズ(IBM)は、いまや新たな注目銘柄となっています。
2025年に入り、IBMの株価は260.22ドルまで上昇し、年初来で約20%の上昇率を記録。ダウ工業株30種平均の中で、最も優れたパフォーマンスを見せています。
AIとクラウドで企業体質を転換
この躍進の背景には、IBMがクラウドコンピューティングと生成AIの分野でリーダー企業へと変貌を遂げつつあることがあります。Graniteやwatsonxといった製品が、ソフトウェアおよびコンサルティング部門の成長を後押しし、投資家の関心を集めています。
評価の急上昇がもたらすリスク
一方で、急激な株価上昇が過剰な期待を生み出しているとの懸念も出ています。かつては低成長で自社株買いに頼る「古いテック企業」と見なされていたIBMですが、現在は2025年の予想利益に対して24倍という、過去5年で最高水準のPER(株価収益率)で取引されています。これは従来の平均である15.4倍を大きく上回る水準です。
さらに、S&P500との比較では7%のプレミアムで取引されており、かつて約30%のディスカウントだったことを考えると、評価の転換がいかに急速であるかが分かります。
成長率に見合わぬバリュエーション
ただし、IBMはマグニフィセント・セブンのような爆発的な利益成長が見込まれているわけではありません。アナリストによれば、1株当たり利益(EPS)の成長率は2025年と2026年が約6%、その後も年間7%前後と緩やかな成長が続く見通しです。
この成長率に対して24倍というPERは割高感が否めず、エヌビディア(NVDA)やアルファベット(GOOGL)、アマゾン・ドット・コム(AMZN)といった高成長銘柄を上回る評価を受けている現状は、バリュエーションと実態とのミスマッチを示しています。
アナリストの評価は真っ二つ
ウォール街の見方は分かれています。IBMをカバレッジしているアナリストの約半数が「買い」と評価する一方で、残りは「中立」もしくは「売り」としています。大企業としては異例の評価分裂であり、現在の株価水準に対する市場の懐疑的な見方を示しています。
IBMのコンセンサス目標株価は253.56ドルで、現在の株価よりも約3%低く設定されています。
鍵を握るソフトウェア事業の成長
モルガン・スタンレーのアナリスト、エリック・ウッドリング氏は「今後の成長にはソフトウェア部門の加速が不可欠」と指摘しています。同氏は、小さなネガティブサプライズであってもバリュエーションの圧縮につながるリスクがあるとして、IBM株に「イコールウェイト(中立)」の評価を付け、目標株価を233ドルとしています。
レガシー事業の足かせも残る
IBMは依然としてレガシー事業の課題を抱えています。第1四半期において、メインフレームなどを含むインフラストラクチャ部門は全体売上高の約20%を占めましたが、売上は前年比で6%減少しました。
JPモルガンのブライアン・エセックス氏は「ハードウェア事業への依存がある以上、IBMには割引評価が妥当」とし、「中立」評価と244ドルの目標株価を提示しています。
まとめ:IBMは変革の途上にある
IBMは、もはや「退屈なPC・サーバー企業」ではなく、ソフトウェアとサービスを軸にしたダイナミックな企業へと転換を進めています。ただし、現在のプレミアム評価を維持するためには、持続的かつ確実な成長が不可欠です。
過度な期待が先行し、実態とのギャップが生じた場合、株価が調整局面に入るリスクも十分にあることを投資家は覚悟する必要がありそうです。
*過去記事はこちら IBM