2025年5月13日、日本経済新聞に掲載された英エコノミスト誌の記事では、米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)が直面する対中輸出規制の難題について詳しく報じられています。以下、その内容をかみ砕いてご紹介します。
米国の輸出規制とエヌビディアの対応
エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは、「中国市場に貢献する」と強調しつつも、米政府による対中半導体輸出規制の強化という壁に直面しています。2022年以降、米国はAI向け先端半導体の中国輸出を段階的に制限。これに対しエヌビディアは「H800」や「H20」といった性能を意図的に落とした製品を投入しましたが、規制はさらに強化され、これら製品の販売も事実上禁じられる状況にあります。
闇市場と第三国経由の抜け道
記事が強調するのは、規制の裏をかくサプライチェーンの存在です。特にマレーシア・ジョホール州は中国企業にとって「便利な裏口」となり、クラウドサービス経由で米国製AI半導体に間接的にアクセスする手段となっています。また、第三国経由の密輸や、フロント企業を使った取引が後を絶たず、エヌビディア製品は高額なプレミアム付きで流通しているのが実情です。
法令順守と現場の限界
エヌビディアは法令順守を徹底するとしつつも、流通経路が複雑化する中で最終ユーザーの完全把握は困難です。クラウド大手やサーバーメーカーも顧客審査を行っていますが、所有権の移動や取引の透明性に限界があります。こうした事情が、米政府の規制効果を薄める一因となっています。
米国の規制強化とトランプ政権の方針
米国は現在、120カ国以上を対象とする規制網を検討していますが、トランプ政権は規制の「簡素化」を掲げ、半導体を外交交渉のカードとして使う可能性も指摘されています。一方で、輸出規制を担当する米商務省の人員不足も深刻で、東南アジア全域を1人の担当者がカバーするという脆弱な体制が浮き彫りになっています。
技術的対策とイノベーションの必要性
密輸を完全に防ぐことは難しく、エヌビディアは遠隔測定データ(テレメトリー)による監視を提案していますが、全数管理は現実的ではありません。記事は、米国が中国に対抗するには「規制強化だけでなく、技術革新の加速が不可欠」と締めくくっています。
まとめ
エコノミストの記事は、表面的な規制論争に留まらず、グローバルなサプライチェーンの現実と、それに対応する企業や国家の戦略的ジレンマを浮き彫りにしています。エヌビディアを巡るこの問題は、米中テクノロジー覇権争いの縮図とも言えます。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA