5月2日の米国市場では、イーライ・リリー(LLY)の株価が一時的な反発を見せ、前日比で3.7%上昇しました。しかし、過去5営業日では約7%の下落となっており、GLP-1系の肥満治療薬市場での競争激化が投資家心理に影を落としています。特に、同業のノボ・ノルディスク(NVO)が発表したCVSヘルス(CVS)との提携が、市場に不安をもたらしました。
ノボがCVSと提携、イーライ・リリーに逆風か
ノボ・ノルディスクは、米国の大手医療保険管理企業CVSヘルスの薬剤給付管理(PBM)事業において、自社の肥満治療薬「ウェゴビー(Wegovy)」を優先処方薬とする契約を発表しました。これは、イーライ・リリーの「ゼップバウンド(Zepbound)」にとって不利な動きと見られ、同社株はその影響を受けて一時的に11%以上下落しました。
しかし、市場の反応ほど深刻な影響はないとの見方もあります。
アナリストは依然強気な評価を維持
JPモルガンのクリス・ショット氏は、CVSの決定はイーライ・リリー全体のビジネスにとっては限定的な影響しか与えないと述べています。さらに、ウェゴビーよりもゼップバウンドの方が全体の肥満治療市場でシェアを拡大していくとの見通しも示しています。
リリンク・パートナーズのデービッド・ライジンガー氏も、今回の下落は過剰反応であり、むしろ買いの好機と評価しています。同氏はゼップバウンドの米国売上予想を慎重に下方修正した一方で、現在開発中の新しい経口GLP-1薬「オルフォグリプロン(orforglipron)」の見通しを引き上げました。
また、多くのGLP-1薬が実際には自己負担(キャッシュ)で購入されている点も指摘し、CVSの決定がゼップバウンドに与える影響は限定的と分析しています。なお、ライジンガー氏はイーライ・リリー株に「アウトパフォーム」の評価を付け、目標株価を944ドルとしています。
GLP-1市場全体は拡大継続の見通し
イーライ・リリーのGLP-1薬「チルゼパチド(tirzepatide)」は、糖尿病治療薬「マンジャロ(Mounjaro)」および肥満治療薬「ゼップバウンド」として販売されており、その効果の高さはノボの競合薬を上回るとの臨床結果も報告されています。
現時点で米国で肥満治療薬として正式に承認されているのはイーライ・リリーとノボ・ノルディスクの製品のみですが、アムジェン(AMGN)、バイキング・セラピューティクス(VKTX)、そしてデンマークのジーランドファーマなど、新興企業もこの巨大市場への参入を狙っています。
また、ヒムズ&ハーズ・ヘルス(HIMS)などの調剤薬局によるコンパウンド薬の提供も拡大しており、価格競争が激化する可能性も指摘されています。
今後の注目ポイントはノボの決算発表
投資家にとっては、ノボ・ノルディスクの2025年第1四半期決算(5月7日発表予定)にも注目が集まります。特に、CVSとの契約が米国市場にどの程度影響を与えるかが焦点となります。
今回の株価下落は、GLP-1薬の価格に対する広範な懸念も一因とされていますが、複数のアナリストおよびイーライ・リリー自身も、大きな問題とは捉えていません。
バンク・オブ・アメリカのアナリスト、ティム・アンダーソン氏も「CVSの件は実際の重要性よりも大きく報じられすぎた」と述べており、株式市場の過剰反応であった可能性が高いと考えられています。
このように、短期的な調整があったとしても、中長期的にはGLP-1市場全体の拡大が見込まれ、イーライ・リリーはその中心的存在として投資対象としての魅力を保ち続けています。今後も競争環境や新薬の動向に要注目です。