2025年、トランプ大統領の関税政策が大きな注目を集めていますが、その影響はアメリカの観光業、特に旅行関連株にまで及んでいることが明らかになりました。観光関連企業はまだ大きな打撃を受けていませんが、国際的な渡航者の減少が続けば、さらなるリスクとなる可能性があります。
海外からの訪問者数が急減
アメリカ国際貿易局(ITA)のデータによると、2025年3月のアメリカへの海外訪問者数は前年同月比で11.6%減少しました。特に西ヨーロッパからの訪問者は17%減、メキシコからの航空機利用の訪問者は23%の減少となりました。
カナダからの訪問も激減しており、3月の自動車による再入国数は32%減少しました。旅行データ企業OAGによると、2025年4月のカナダ発アメリカ行きの航空予約は前年同月比で75%減、9月までの各月も70%以上減少しています。
この状況を受けて、カナダとアメリカの旅行業界団体が「Beyond Borders Tourism Coalition」を結成。両国は重要な旅行・貿易パートナーであり、観光客の減少が地域経済に打撃を与えていると警告しています。
米中対立の影が観光にも拡大
これまで、関税問題は半導体やAIインフラ関連の主要企業、例えばエヌビディア(NVDA)やアマゾン(AMZN)などの業績と株価に影響を与えてきました。しかし、関税がもたらす「国境の壁」はモノだけでなく「ヒト=観光客」にまで及びつつあります。
過去のブログでも指摘してきたように、2025年の市場は政治リスクが顕在化する中で、米国株全体に下落圧力がかかっています。観光業界もその例外ではなく、経済的な摩擦が旅行需要に波及する構造的リスクが浮かび上がっています。
ネガティブな米国イメージが影響
オックスフォード・エコノミクスの分析によれば、トランプ政権の政策や発言が、潜在的な国際旅行者の間にアメリカに対するネガティブな印象を生んでいます。特に国境警備の強化や移民取り締まりの強化が、不安を増幅させているとのことです。
2025年は政治的緊張が企業業績を揺るがす年となっており、「トランプ・リスク」は旅行関連銘柄にも波及しています。すでに一部投資家は、旅行関連株に対して慎重なスタンスをとり始めています。
アメリカ人の海外旅行は堅調
一方、アメリカ人の海外旅行は好調を維持しています。ITAによると、2025年3月には670万人以上のアメリカ人が海外旅行から帰国しており、前年比で5%増加しています。
この背景には、富裕層による旅行需要の強さがあります。ユナイテッド航空(UAL)やデルタ航空(DAL)は、国際旅客の大半をアメリカ人が占めているため、海外からの訪問者減少の影響を抑えられています。
ユナイテッド航空の最高商業責任者であるアンドリュー・ノセラ氏は、プレミアムクラスを利用する富裕層旅行者は影響を受けにくく、不況時でも海外旅行を続ける傾向があると述べました。
アメリカン・エキスプレスも富裕層に支えられる
アメリカン・エキスプレス(AXP)のスティーブン・スクエリCEOも、旅行予約件数が過去最高を記録したと述べており、特に国際旅行が増加したことを強調しました。
デルタ航空でも国際売上の約80%がアメリカ発であることから、海外からの旅行者減少の影響は限定的です。
クルーズ業界やホテル業界も一定の安定性
ロイヤル・カリビアン(RCL)、ノルウェージャン・クルーズ・ライン(NCLH)、カーニバル(CCL)といったクルーズ企業も、乗客の多くを北米から集めており、他国からの「米国ボイコット」の影響を限定的に抑えています。
シュティフェルのアナリスト、スティーブン・ウィチンスキー氏は、ノルウェージャンの乗客の85%以上が北米出身で、カナダからの乗客は全体の5%程度にすぎないと分析しています。
UBSのロビン・ファーリー氏も、カーニバルのカナダ依存度は3〜4%程度と見ています。
ホテル業界も国内顧客に依存しているため、大きな打撃は受けにくいと見られます。例えば、マリオット・インターナショナル(MAR)の宿泊客の約80%は、そのホテルがある国の住民であり、米国内では国際観光客による宿泊は全体の5%程度にとどまっています。その大半はメキシコとカナダからの旅行者です。
まとめ:旅行関連株は耐性を見せつつも、回避不能な地政学リスクが残る
現在のところ、アメリカの観光関連企業は海外旅行者の減少にうまく対応できていますが、2025年は「政策一つで業績が一変する年」です。
関税の余波は旅行業界にも広がりつつあり、米国旅行関連株にとっての安全圏は徐々に狭まっています。中長期投資家にとっては、こうした地政学的リスクを読み解くことが、パフォーマンスを左右する重要な鍵となります。