投資戦略を考えるうえで、しばしば複雑な数式や新しい理論に目を向けがちです。しかし、米投資情報メディアのマーケットウォッチが紹介した最近の研究は、むしろ「シンプルで本質的な視点」に立ち返ることの重要性を強調しています。この記事では、その研究内容を踏まえつつ、収益性を軸にしたバリュー株投資について考察します。
ファクター投資の過剰供給と背景にある動機
これまでバリュー、クオリティ、モメンタム、低ボラティリティといった多くの投資ファクターが登場してきました。近年ではETF運用会社を中心に、新たなファクターが乱立する状況となっています。その背景には、他社との差別化を図り、手数料収入を確保するために独自性のある投資商品を次々に開発しているという実情があります。
マーケットウォッチによると、過去20年間で提唱された数百のファクターの多くが、実は一つの共通要素――「収益性」――に収束しているとのことです。研究では、営業利益を帳簿上の純資産で割ることで、企業の収益性を測定しています。
専門家の分析:「収益性」に集約される投資ファクター
この研究は、ロチェスター大学の金融学教授とディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ(DFA)のリサーチ責任者によって行われました。両者によると、「収益性の高い企業に投資し、低い企業を避ける」ことで、他のあらゆる“質”を重視したファクターよりも明確なリターン向上が期待できるとされています。
また、「株主資本利益率(ROE)」や「利益の安定性」といった従来のクオリティ要因、あるいは「低ボラティリティ」「低ベータ」といった防御的要因も、最終的には収益性の高さを反映しているケースが多く、実質的に同じ指標を別の表現で示しているだけである可能性があると説明されています。
営業収益性に基づく注目銘柄:S&P500の代表例
マーケットウォッチが提示した2025年3月時点のデータ(FactSet、Hulbert Ratings)によれば、S&P500の中で営業収益性が高いとされる企業には、以下のような銘柄が挙げられています。
企業名(ティッカー) | 収益性(営業利益 ÷ 帳簿純資産) |
---|---|
コルゲート・パルモリーブ(CL) | 1.93 |
ダヴィータ(DVA) | 1.27 |
ベリスク・アナリティクス(VRSK) | 1.14 |
アッヴィ(ABBV) | 0.65 |
ライブ・ネーション・エンターテインメント(LYV) | 0.62 |
センサラ(COR) | 0.43 |
キンバリー・クラーク(KMB) | 0.35 |
ホーム・デポ(HD) | 0.29 |
クロロックス(CLX) | 0.29 |
アップル(AAPL) | 0.27 |
マスターカード(MA) | 0.25 |
ボーイング(BA) | 0.25 |
オラクル(ORCL) | 0.22 |
エーオン(AON) | 0.20 |
モトローラ・ソリューションズ(MSI) | 0.20 |
これらの企業は業種こそ異なるものの、いずれも営業利益の面で非常に優れたパフォーマンスを示しています。ここで重要なのは、バリュー株という括りで判断するのではなく、「なぜこれほどの収益性を維持できているのか」を見極めることにあります。
個人投資家にとっての実践的な活用方法
すべての上場企業を対象に収益性を比較するのは現実的ではありませんが、気になる数銘柄に絞れば、営業利益と純資産をもとに簡易的な計算を行うことは十分可能です。マーケットウォッチやYahoo!ファイナンスなど、無料でアクセスできる財務情報サイトを活用すれば、必要なデータをすぐに取得できます。
また、ETFを利用する選択肢として、DFAが提供する「米国高収益ETF(DUHP)」のような商品も紹介されています。経費率は0.21%と抑えられており、収益性重視のポートフォリオ構築を検討する際に参考になります。
シンプルな指標こそが強力な武器になる
「収益性」というシンプルな指標に着目することで、複雑な理論や市場ノイズに惑わされず、本質に基づいた投資判断が可能になります。マーケットウォッチが紹介した研究は、多様なファクターの中で何が最も重要なのかを再認識させる内容でした。
不確実性が高まる中、こうした基本に立ち返る視点こそが、長期的なリターンの鍵を握ることになりそうです。