米スポーツ・ギャンブルの未来を揺るがす「予測市場」の台頭――注目企業カルシと規制の攻防

  • 2025年3月31日
  • 2025年3月31日
  • BS余話

2025年、アメリカではスポーツ・ギャンブルの構造に大きな変化が起きようとしています。その中心にあるのが、ニューヨーク発のスタートアップ企業、カルシ(Kalshi)です。同社は「予測市場」と呼ばれる新しい仕組みを通じて、これまでのスポーツベッティングとは異なる形で市場に挑んでいます。

スポーツベッティングとの違い:イベント契約という新たな仕組み

カルシが提供するイベント契約は、「Yes」か「No」の二択で未来の出来事を予測する形式の金融商品です。たとえば「デューク大学が勝つか?」という問いに対して、勝つ可能性が55%と見られれば、「Yes」の契約は55セントで購入でき、的中すれば1ドルが支払われます。

この仕組みは、従来のスポーツベッティングで見られるマネーラインや複雑なオッズよりも分かりやすいと評価されています。カルシはこれを単なるギャンブルではなく、「真実を発見するためのツール」と位置づけており、あくまで金融商品の一種として扱われるべきと主張しています。

一方で、ギャンブル業界の一部では、こうした予測市場が「合法的なスポーツベッティングの裏口」となり得るとして警戒感を強めているようです。

拡大する予測市場とスポーツベッティング税収への影響

アメリカではスポーツ・ギャンブルが州政府の重要な税収源となっています。Tax Foundationによると、2023年のスポーツ・ベッティング関連税収は約18億ドルに達しており、2019年の7900万ドルから大きく増加しました。

この成長する収益源に対し、予測市場が金融商品として扱われる場合、異なる税制が適用される可能性があります。その結果、既存の州税収に影響を与える懸念も広がっています。

規制と政治的背景:拡大する影響力

カルシは政治的な支援にも恵まれています。2025年1月には、ドナルド・トランプ大統領の息子であるドナルド・トランプ・ジュニア氏が戦略アドバイザーに就任しました。また、トランプ政権下で米商品先物取引委員会(CFTC)委員を務めたブライアン・クインテンツ氏も、過去にカルシの理事を務めていました。

クインテンツ氏は2021年に、「バイナリーの結果を伴うイベント契約は、規制の観点から自動的にギャンブルと見なされるものではない」との見解を示しており、こうした発言がカルシの合法性を主張する根拠のひとつとなっています。

CFTCは現在、カルシやオンライン取引プラットフォームのクリプト・ドット・コムが提供するスポーツイベント契約について90日間の審査を実施しています。これは新商品への標準的な対応とされていますが、今後の判断次第で予測市場全体の成長スピードに大きな影響を与えると見られています。

ロビンフッドやドラフトキングスも動き出す

カルシの取り組みに刺激され、他のテクノロジー企業も予測市場への関心を強めています。ロビンフッド(HOOD)はカルシと提携し、NCAA(全米大学体育協会)トーナメントに関連したイベント契約を自社のアプリで提供しました。このニュースを受けて、ロビンフッドの株価は8%上昇しました(出典:バロンズ)。

また、クリプト・ドット・コムは2024年12月からスポーツイベント契約の提供を開始し、ロビンフッドのライバルであるインタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)も同年8月から参入しています。さらに、ドラフトキングス(DKNG)は「DraftKings Predict」という新事業を全米先物協会に登録し、CFTCの承認を待っている状況です。

一方、ファンデュエルを運営するフラッター・エンターテインメント(FLUT)は慎重な姿勢を見せています。同社の経営陣は「予測市場の商品は、伝統的なスポーツブックが提供するサービスに比べて内容が浅い」と述べ、当面は様子を見る方針を取っているようです。

州の対応と今後の見通し

ネバダ州では、ギャンブル管理委員会がカルシに対し、州内でのイベント契約の提供を3月14日までに停止するよう命じました。ただし、その後、延長が認められたと報じられています。

また、マサチューセッツ州では、ウィリアム・ガルビン州務長官がロビンフッドに対する調査を開始しました。同社は「イベント契約はCFTCによって規制されており、連邦法の範囲内で提供されている」と説明しています。

今後、NFLやスーパーボウルといった大型イベントに向けて、より多くの企業がCFTCの枠組みを活用して予測市場へ参入することが予想されます。特に若い世代の投資家やスポーツファンに向けた新たなサービスとして注目されています。

予測市場はスポーツ・ギャンブルの未来を変えるのか

予測市場は、単なる賭けの仕組みを超えて、経済・政治・エンタメの分野を横断する新しい情報プラットフォームとしての性格を強めています。集合知を活用することで、将来の出来事に対する市場の見方や、世論の傾向を把握できる手段として活用が広がる可能性があります。

CFTCの判断や各州の対応が予測市場の成長を左右することは間違いありません。スポーツベッティングと金融投資の境界線があいまいになる中、新たなルールとビジネスモデルがどのように形成されていくのか、今後も注目が集まりそうです。

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