生成AIのブームが本格化してからおよそ1年半が経過した2025年春、米国株式市場ではAI関連銘柄の株価が軟調に推移する場面も目立ってきました。こうした中、米投資情報誌のバロンズが3月に開催した「テックラウンドテーブル」では、複数のプロ投資家がテック株とAI投資の現状について意見を交わしています。本記事では、その議論内容をもとに、現在の市場局面をどう捉えるべきかを考察していきます。
テック株の調整は自然な循環現象か?
2025年に入ってからのテック株の調整について、一部のファンドマネージャーは「過去2年の急騰を受けた健全な修正局面」と見ているようです。とくにジャナス・ヘンダーソンの運用担当者は、バリュエーションが過熱気味だった2023年後半からの修正は「ごく自然なサイクルの一部」だと述べており、中長期で魅力ある銘柄への投資機会が生まれているとの見方を示しています。
実際、ファクトセットのデータによれば、エヌビディア(NVDA)の株価は2024年末から2025年3月にかけて10%以上下落しましたが、過去3年で5倍以上の上昇を維持しており、過熱感の是正と捉えることも可能です。
AI設備投資は一時的に減速する可能性も
AI関連の設備投資に関しては、やや慎重な意見も聞かれます。J.P.モルガン・アセット・マネジメントの運用者は、「AI向け投資は2023年から2024年前半にかけてピークを迎えた可能性がある」と述べ、今後は成長の踊り場に入るリスクを指摘しています。クラウドやGPU関連企業については、短期的な利益確定の流れが強まる可能性もあるとのことです。
このような状況では、「中核銘柄の入れ替え」や「インフラ層からアプリケーション層への資金シフト」を意識した戦略が有効になると考えられます。
次世代GPU「ブラックウェル」が生む“囚人のジレンマ”
AIブームの中心にあるエヌビディアについては、次世代GPU「ブラックウェル」の投入が新たな投資の波を引き起こすと見られています。ある投資家によると、アルファベット(GOOGL)やマイクロソフト(MSFT)などの大手テック企業は、競合に後れを取らないよう設備投資を継続する必要があり、それが“囚人のジレンマ”のような状況を生んでいるとのことです。
ただし、このような投資行動が持続するかどうかは、ROI(投資対効果)にかかっているとする意見もあります。もし次世代AIモデルが期待に応えられなければ、2026年以降には急激な設備投資の反動が起きるリスクもありえます。
AIエージェントの実用化と業種特化型AIの可能性
今後のAI成長の鍵を握るのが「AIエージェント」の実用化です。例えば、インテュイット(INTU)では90%以上の精度を持つAIエージェントを活用しており、特定の業種においてはすでに高い実用性があることが示されています。
汎用的なAIではなく、業種ごとに最適化されたAIソリューションのほうが成長性が高いという指摘もあり、金融、医療、Eコマースなどでの用途が拡大することが期待されています。
注目銘柄:インフラ、ソフトウェア、産業用途に広がるチャンス
今回のラウンドテーブルで挙げられた注目銘柄の中には、今後の成長が見込まれる企業が多く含まれていました。代表的な企業として以下が挙げられます:
- スノーフレーク(SNOW):AI導入に必要なデータ整備と統合で優位性を持つ
- パロアルトネットワークス(PANW):AI活用時のセキュリティ課題に対応
- ケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS)、シノプシス(SNPS):EDA(電子設計自動化)分野の世界的な二強
- メルカドリブレ(MELI):AIを活用した与信管理や物流最適化が期待されるラテンアメリカ企業
- クォンタ・サービシズ(PWR):電力需要拡大に伴う送電インフラ整備の受益者
そのほか、エラスティック(ESTC)、サイバーアーク・ソフトウェア(CYBR)、レディット(RDDT)、イーメモリーテクノロジー、ハーモニック・ドライブ・システムズといった国際企業にも注目が集まっています。
テック大手の中で最も注目されるのは?
いわゆる「マグニフィセント・セブン」の中で、最も評価されていたのはメタ・プラットフォームズ(META)とマイクロソフト(MSFT)です。前者は安定した広告ビジネスに加え、眼鏡型デバイスやオープンソースAIといった新領域にも攻めの姿勢を見せており、後者はすでにAIによる売上貢献が複数の事業領域で確認されている点が評価されました。
一方、アップル(AAPL)やテスラ(TSLA)については、イノベーションの減速や競争激化を懸念する声もありました。
AIバブルではなく、構造的成長と見るべき理由
今回のバロンズ・ラウンドテーブルを通じて明らかになったのは、「AIは一過性のブームではなく、構造的な成長テーマである」という点です。テック株全体としては一時的な調整局面にあるものの、AI導入による企業の生産性向上や新たな市場創出にはまだ大きな可能性が残されています。
今後は、インフラからアプリケーション層、さらには産業用途に至るまで、AIによって真の競争力を持つ企業が明確に分かれ始めると考えられます。投資先の選別が重要になる今こそ、個別企業の戦略やポジショニングを慎重に見極める視点が求められます。