2025年第1四半期に実施されたアリアンツ・ライフによる調査によれば、アメリカ人の過半数(51%)が「近い将来、大規模な株式市場の暴落が起こる」と考えているそうです。これだけ聞くと、市場が危機的な局面に近づいているかのように思えますが、実はこのような「暴落不安」が高まっている時期こそ、株式市場が好調に推移する可能性が高いという見方もあります。
投資家の「感情」が示す逆指標
このような市場心理に着目した分析は、過去にも数多く行われてきました。特に注目されるのが、イェール大学のロバート・シラー教授による長期的な調査データです。同教授の調査では、毎月「今後6カ月以内に1929年や1987年のような壊滅的な市場クラッシュが起こると思いますか?」という質問が投資家に投げかけられています。
この調査データを使った分析によると、投資家が「クラッシュの可能性が高い」と感じている時期ほど、その後のS&P500指数(トータルリターンベース)のパフォーマンスが高くなる傾向があるといいます。これは、市場参加者のセンチメントが「恐怖」に傾いている時ほど、株価が割安に評価されており、逆に期待値が高まりすぎている時期ほど、調整が入りやすいという“逆張り”的なロジックに基づくものです。
暴落の「確率」は感情よりもはるかに低い
さらに、ハーバード大学のザビエル・ガバックス教授らの研究によると、1987年10月のような一日に22.6%も下落する急落が今後6カ月以内に起こる確率は、わずか0.33%に過ぎないとされています。これは統計モデルに基づいた客観的な数値であり、個人投資家の感情的な予想とは大きなギャップがあります。
このギャップこそが、市場における貴重なシグナルを与えてくれると考えられています。つまり、過剰な悲観論は実態を反映していないばかりか、むしろ過度に売られた局面を示している可能性があるということです。
クラッシュではなく「長期の弱気相場」に注意
ただし、短期的な一日の暴落の確率が低いからといって、株式市場が安泰であるとは限りません。たとえば2000年のITバブル崩壊後の弱気相場では、S&P500指数の一日の最大下落率は5.8%にとどまりましたが、全体としては長期にわたる大幅下落が続きました。2008年のリーマンショック時でも、一日の最大下落率は9%であり、1987年のような“クラッシュ”とは異なる形で大きなダメージが蓄積していったのです。
このように考えると、投資家が注視すべきは単発的な「クラッシュ」ではなく、経済や企業業績のファンダメンタルズに基づいた「長期の弱気相場」の兆候といえるでしょう。
投資家に求められるのは「冷静さ」
結局のところ、メディアで報じられる悲観的な見通しや、感情に訴えるような「クラッシュ予測」に一喜一憂するのではなく、長期的な視点でポートフォリオを見直し、資産配分やリスク許容度を改めて確認することが重要です。暴落を怖がるあまりキャッシュポジションを過剰に高めれば、むしろリバウンド局面での機会損失に繋がるかもしれません。
市場心理は時として、経済の現実とはまったく異なる方向を示すことがあります。そしてその「不安」が強ければ強いほど、次の上昇の可能性が高まっていることを、私たちは過去のデータから学ぶことができるのです。
出典:
- Allianz Life, “2025 Q1 Quarterly Market Perceptions Study”
- Robert Shiller, Yale University Survey of U.S. Investors
- Gabaix, X. et al., Research on stock market tail risk (Harvard University)