2025年の米国株市場は、年初から波乱含みの展開が続いています。インフレの持続、関税政策の不透明感、そして景気減速への懸念が、特に大型のハイテク株を中心に株価を押し下げています。
しかし、このような不安定な相場環境においても、相対的に値動きの安定した「低ベータ」の成長株に注目が集まりつつあります。
今回は、米投資情報誌『バロンズ(Barron’s)』の記事をもとに、現在の市場動向に対して低ベータ株がなぜ優位とされるのか、またどのような銘柄が注目されているのかを独自の視点で掘り下げて解説します。
市場のボラティリティ上昇が「ベータ」に注目を集める
ベータとは、株式の市場全体(通常はS&P500指数)に対する価格変動の度合いを示す指標で、1を上回る場合は市場よりも値動きが大きく、1を下回ると逆に安定していることを意味します。
年初来、ナスダック総合指数は6%下落し(2025年3月24日現在)、S&P500指数も2%超の下落を記録しています(出典:Yahoo! Finance)。このような状況下で、ボラティリティの低い大型株に資金が向かうのは自然な流れと言えます。
リューソルド・グループのリサーチアナリストは、過去のバブル期(特に2020年のミーム株相場や2000年のITバブル)と比較し、現在の成長株とベータの相関性が極めて高くなっていると指摘しています。これは、「ボラティリティの高い成長株ほど市場全体のリスクオフ局面で売られやすい」という構造が再び強まっていることを意味しています。
医薬品セクターに注目が集まる背景
現在、注目されている低ベータの成長株の多くは医薬品・ヘルスケアセクターに属しています。
例えば、ノボ・ノルディスク(NVO)、イーライ・リリー(LLY)、アストラゼネカ(AZN)、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMY)などの大手製薬株は、いずれもベータ値が0.4~0.6と非常に低い水準にあります(出典:Bloomberg)。
これらの企業は、GLP-1と呼ばれる新しい糖尿病・肥満治療薬の開発・販売において優位な立場にあり、中長期的な成長が見込まれています。特にノボ・ノルディスクとイーライリリーは、欧米市場における肥満治療薬の需要拡大を背景に、2025年も売上成長が期待されています。
一方で、ノボ・ノルディスクが中国の製薬会社から新薬のライセンスを取得するために20億ドルを支払ったとの報道があり、一時的な株価下落が見られたものの、市場全体の安定志向を考慮すると、医薬品株全体の優位性に大きな影響はないと判断できます。
IT・消費・金融にも潜む「低ベータの成長株」
医療セクター以外にも、比較的ベータが低く、成長性のある企業が存在します。
保険会社のオールステート(ALL)、飲食業のチポトレ・メキシカン・グリル(CMG)、住宅建設のDRホートン(DHI)、ITセキュリティのフォーティネット(FTNT)、決済処理のフィサーブ(FI)などが挙げられます。
この中で、特にチポトレとDRホートンは、短期的な消費や住宅需要の減速懸念から株価は軟調ですが、長期的な売上成長率はそれぞれ13%、18%と見込まれており、ファンダメンタルズの面では依然として高く評価されています(出典:ファクトセット)。
ETFの動きから見る投資家の志向変化
個別株に限らず、ETF市場においても「低ボラティリティ戦略」が成果を上げています。
「SPDR S&P500ロー・ボラティリティETF(SPLV)」は年初から1.6%上昇しており、「SPDR SSGA USラージキャップ・ロー・ボラティリティ・インデックスETF(LGLV)」ではウォルマート、コルゲート・パルモリーブ、ペプシコといった生活必需品企業が主力となっており、4%超の上昇を記録しています(出典:ETF.com)。
これらのETFは、相場全体の下落局面において相対的な安定性を示しており、ディフェンシブなポートフォリオ戦略を組む投資家にとって有力な選択肢となっています。
高ベータ株は今後も注意が必要
一方、エヌビディア(NVDA)やテスラ(TSLA)といったハイテク成長株は、ベータ値が約2と非常に高く、市場が不安定な状況では大きく売られるリスクが伴います。
高成長・高バリュエーションという特徴を持つこれらの銘柄は、相場の「リスクオフ局面」では真っ先に売却対象となりやすく、2025年も慎重な投資判断が求められます。
まとめ:2025年の米国株投資で注目すべきは「安定した成長」
インフレ、金利政策、地政学リスクと、数々の不安材料が混在する2025年の株式市場において、ボラティリティの低い成長株は魅力的な投資先の一つです。
特に医薬品セクターや、安定的な消費・金融分野の銘柄は、下落相場でもパフォーマンスの下支えが期待できる構造にあります。
単に「成長株」というラベルだけでなく、「どのような市場環境でもブレにくいか」を見極める視点が、今年の投資戦略ではこれまで以上に重要となりそうです。