2000年3月24日は、金融市場において歴史的な転換点となりました。インターネットバブルの頂点で、株式市場は熱狂の渦に包まれたものの、その後の暴落により数兆ドル規模の時価総額が消失し、多くの投資家が大きな損失を被る結果となりました。
S&P500の頂点と長い回復までの道のり
S&P500指数(SPX)は、2000年3月24日に1,527.46という過去最高の終値を記録しました。しかし、それから2年半でその価値の半分を失い、2002年10月9日に底を打ちました。最終的に元の水準に戻るまでには、実に7年2か月もの期間を要しました。
この大きな上昇と下落の背景には、1995年8月にシリコンバレーの注目企業であったネットスケープが株式市場に上場し、その後のテクノロジー企業ブームが加速したことがあります。S&P500指数はその後約3倍に上昇しました。
ナスダック市場の急成長と急落
特に注目すべきはナスダック総合指数(COMP)で、400%以上の上昇を記録しました。さらに、ナスダック100指数は732%という驚異的な上昇を遂げました。この指数は、時価総額が大きい100社で構成されており、主にテクノロジー関連企業が占めています。
分散投資の重要性が改めて浮き彫りに
このバブル崩壊で、投資家が得た最も重要な教訓の一つが「分散投資の重要性」でした。当時、シスコシステムズ(CSCO)など一部のテクノロジー企業に集中投資していた投資家は、資産を回復するまでに長い時間がかかりました。
一方で、株式60%・債券40%といった伝統的なバランス型ポートフォリオを維持していた投資家は、比較的短期間で損失から回復しました。実際に、ナスダック100指数を追随するインベスコのQQQ ETFは、元の水準に戻るまでに16年半を要しましたが、米国最古のバランスファンドであるバンガード・ウェリントン・ファンドは、約3年で回復しています。
現在のS&P500に潜む集中リスク
2025年3月現在、S&P500指数に占める上位7社の比率は32%以上に達しています。これらの企業は、アップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、アルファベット(GOOGL)、アマゾン・ドット・コム(AMZN)、エヌビディア(NVDA)、メタ・プラットフォームズ(META)、テスラ(TSLA)といった、AIの進展によって売上を拡大してきたテクノロジー企業です。4年前と比較して、これらの企業の指数に占める割合は5ポイント上昇しています。
一つのセクターに集中したポートフォリオは、当然ながらリスクが高くなる傾向があります。過去のバブル崩壊は、そうした集中投資に対するリスクを明確に示しています。
株価と景気のタイムラグ
意外なことに、2000年の株価下落にもかかわらず、米国経済が景気後退に陥ったのは翌年の2001年3月から11月までの短期間に過ぎませんでした。これは、株価の変動が実体経済に影響を及ぼすまでにタイムラグが存在することを示しています。
ルーソルド・グループのチーフ・インベストメント・オフィサーであるダグ・ラムジー氏は、「景気後退が始まるまでに、すでに株価指数は24%下落しており、最終的には49%の下落に達した」と述べています。現在では「ウェルス・エフェクト(資産効果)」が経済に与える影響がより大きくなっており、株式市場の下落がより迅速に経済に波及する可能性があるとも指摘されています。
ウェルス・エフェクトと個人消費の関係
ウェルス・エフェクトとは、株価の上昇によって家計の資産が増加し、それに伴って個人消費が増える現象を指します。2024年第4四半期の時点で、米国の家計純資産は過去最高の169兆ドルに達しました。その多くは、企業株式の保有によってもたらされています。
全米経済研究所(NBER)の2019年の研究によると、株式市場の資産が1ドル増加すると、年間の個人消費は2.8セント増加するという結果が得られています。
バブルは市場の一部として繰り返される
最後に注目すべき点は、バブルが市場における「異常」ではなく、「周期的に起こる出来事」であるということです。大きなバブルだけでなく、小規模なバブルも含めれば、数年に一度は何らかの形で発生しています。
ポジティブな兆しとして、2022年11月にChatGPTが一般公開され、AIブームが始まったと考えられる時期から2025年3月までのS&P500指数の上昇率は約45%にとどまっています。これは、1990年代後半のインターネットバブル期の上昇幅の4分の1程度であり、過熱感は比較的抑えられていると言えます。
*絶望からの復活を支えた米国市場の強さ
個人的な話になりますが、インターネットバブルは、私にとって投資人生の出発点でした。熱狂の頂点に立った高揚感は束の間、突然の暴落により、なすすべもなく奈落の底へ突き落とされました。そこからの数年間は、絶望と苦悩の中でもがき続ける日々でした。
あれから四半世紀——。あの経験を乗り越え、再び立ち上がることができたのは、米国株という市場の底力があったからに他なりません。今では、その強さと回復力に、心から驚きと感謝の気持ちを抱いています。