2025年、アメリカでは再び「モノづくり」への回帰が大きなトレンドとなっています。この流れは、ドナルド・トランプ大統領の政策によってさらに加速しており、米国株式市場の中でも特に産業株への注目が集まっています。
著名な米投資情報誌『バロンズ(Barron’s)』では、3月中旬にこのテーマを大きく取り上げており、製造業回帰が及ぼす株式市場への影響について詳細に分析されていました。本記事では、その報道内容を踏まえつつ、独自の視点から米国株投資家にとっての示唆を掘り下げていきます。
製造業復活は現実味を帯びているか?
中国のWTO加盟以来、アメリカの製造業はコスト競争力を失い、多くの生産拠点が海外へ移転してきました。しかし、近年のサプライチェーンの混乱や地政学的リスクの高まりを背景に、米国内に製造能力を戻す「リショアリング」が強く意識され始めています。
バロンズによれば、トランプ政権はこの動きを本格化させる意向で、政策ツールとして関税を活用しつつ国内生産を促進する方針とのことです。このような政策は短期的に物価上昇圧力を招く一方で、長期的には国内の産業基盤強化と技術革新を後押しする可能性があります。
投資対象としての産業株 ― 再評価の動き
バロンズの記事では、イートン(ETN)やGEベルノバ(GEV)、ロックウェル・オートメーション(ROK)など、アメリカ国内の製造インフラ再構築の中心となる企業が紹介されていました。これらは、電力供給や自動化、建設機器といった領域で強みを持つ企業であり、現在進行中の産業再生トレンドの中核を担っています。
とりわけ、バンク・オブ・アメリカのアナリストの分析では、米国内におけるメガプロジェクト(1,000億ドル超)の急増が、これら企業の売上成長と利益率の拡大に寄与するという見方が示されています。これは、米国国勢調査局の建設支出統計(2024年の製造業向け建設支出は前年比+20%、2,320億ドル)とも整合的で、今後の継続的な成長が期待されます。
自動化と電力インフラ ― テーマ性が明確な成長領域
また、米国内では製造業の人材不足(マッキンゼー調査によると190万人のギャップ)という構造的課題も顕在化しており、自動化は避けて通れないテーマです。ここで注目されるのがロックウェル・オートメーションやアメテック(AME)のような企業です。これらは工場の自動化やエネルギー効率化を実現する製品・サービスを提供しており、まさに労働力不足への直接的なソリューションとなり得ます。
さらに、AIや電気自動車の普及によって電力需要は急増しています。米エネルギー情報局(EIA)のデータを基にすると、アメリカの電力消費量は2020年以降で年平均2%以上の成長に転じており、今後も増加が見込まれます。この需要に対応するインフラ整備を担うのが、クォンタ・サービシズ(PWR)やシュナイダー・エレクトリックなどの電力系企業です。
有望なETFと個別銘柄の選択肢
製造業ルネサンスに関連する有望なETFとして、バロンズは以下のものを挙げています:
- iシェアーズ・米国インダストリアルETF(IYJ):191銘柄を保有するが、ビザとマスターカードが上位にある点がやや難点。
- ファースト・トラスト RBA アメリカン・インダストリアル・ルネサンスETF(AIRR):中小型株を中心に52銘柄を保有。
- iシェアーズ・米国製造業ETF(MADE):2024年に新設され、ディア、ホネウェル、ゼネラルモーターズなどを保有。
- インダストリアル・セレクト・セクターSPDR ETF(XLI):時価総額加重平均型で安定した投資が可能。
- バンガード・インダストリアルETF(VIS):幅広い時価総額の銘柄に分散投資。
個別銘柄では以下の企業にバロンズは注目しています:
- CRH(CRH):建築資材で世界最大級、アメリカで売上の61%を計上。トゥルイスト証券は120ドルの目標株価を設定。3月21日の終値94.65ドルに対して27%の上昇余地。
- アメテック(AME):電子機器と電気機械装置を提供し、資本支出拡大の恩恵を受ける。BofAは225ドルの目標株価を設定。3月21日の終値174.52ドルに対して29%の上昇余地。
- GEベルノバ(GEV):電力関連機器の製造で、2025〜2026年のEBITDA成長率は約50%を予測。BofAは485ドルの目標株価を設定。3月21日の終値333.87ドルに対して45%の上昇余地。
- イートン(ETN):送配電システムのソフト・ハードウェア両方を手がけ、2030年までに年間売上6〜9%、利益率4ポイント改善を目指す。キーバンクは340ドルの目標株価を設定。3月21日の終値295.44ドルに対して15%の上昇余地。
製造業回帰は長期的なテーマ ― 市場の波を捉える鍵
バロンズの記事は、製造業回帰が単なる政策アピールではなく、構造的な市場トレンドであることを示唆しています。もちろん、関税政策の不確実性や景気の一時的な後退リスクはありますが、長期視点では製造業、インフラ、自動化、電力といった分野は、今後10年を通じて投資家に収益機会を提供してくれる可能性が高いと考えます。
アメリカの「モノづくり」回帰は、単なる懐古主義ではなく、エネルギー、テクノロジー、社会構造の変化に伴う必然的な再構築です。こうした時代の転換点において、先を見据えた投資判断が問われています。