投資情報誌『バロンズ(Barron’s)』が、自社株買いに対する投資家の過剰な期待に注意を促す記事を掲載しました。自社株買いは一株あたり利益(EPS)を押し上げることから好感されやすい施策ですが、必ずしも株価を持続的に上昇させるとは限らないという見方が広がっています。
米国株市場では、自社株買いを発表した企業に短期的な資金が流入し、株価が一時的に上昇することがよくあります。ただし、事業成長のための再投資を見送っている可能性や、株価が割高な状態での買い戻しによって資本効率が低下するリスクも存在します。
EPSが増えても長期的な株主価値向上とは限りません
自社株買いの主な目的は、発行済株式数を減らすことでEPSを向上させる点にあります。EPSは企業価値を評価するうえでの指標の一つであり、見かけ上の数値が良くなることで市場からの評価が高まりやすくなります。
しかし、調査会社トリバリエイト・リサーチ(Trivariate Research)のデータによりますと、2009年以降、年間0.5〜2.5%のペースで株式を減らしてきた企業は、平均で0.8%程度のリスク調整後超過リターンにとどまっていたとされています。一方で、同程度の株式数を増やした企業の方が、リスク調整後で約1%の超過リターンを記録していたとのことです。
この結果から、EPSの向上が必ずしも株主価値の持続的な拡大につながらないことがうかがえます。投資先を評価する際には、企業の成長戦略や競争優位性といった定性的な要素にも注目することが重要です。
市場が下落した月の「自社株買い」は有効なシグナルになることも
一方で、自社株買いが短期的な株価反発のシグナルとなるケースもあります。『バロンズ』が紹介したトリバリエイトの分析によりますと、S&P500指数が下落した月の翌月に自社株買いを活発化させた企業群は、平均で0.7%を超えるリターンを記録したとのことです。これは年率換算で約9%に相当し、他の企業グループよりも高いパフォーマンスとなっています。
このように、相場が不安定な局面での自社株買いは、投資家に安心感を与えたり、株価の底打ちを印象づけたりする効果があると考えられます。短期売買を前提とする投資スタイルにおいては、こうした買い戻しのタイミングを参考にすることも有効です。
2025年、注目すべき「自社株買い企業」5社
2025年には、すでに複数の大手企業が既存の自社株買いプログラムに追加を発表しています。トリバリエイトが注目しているのは、以下の企業です。財務の健全性やキャッシュフローの豊富さから、株価反発の有力候補と目されています。
- チポトレ・メキシカン・グリル(CMG)
2024年末に買い戻し枠を10億ドルに拡大。フリーキャッシュフローは17億ドル、現金保有は7億5,000万ドル。負債はゼロという極めて健全な財務状況を持ち、2025年3月には株価が6%下落しており、反発余地が大きい銘柄です。 - アプライド・マテリアルズ(AMAT)
半導体製造装置の大手であり、安定したキャッシュ創出力を背景に、自社株買いを継続的に実施しています。AIや自動運転といった分野の需要拡大も、長期的な株価成長を支える要因となっています。 - TJXカンパニーズ(TJX)
ディスカウントアパレルを展開し、インフレ下でも安定した業績を誇る企業です。小売業界ではめずらしく積極的な自社株買いを行っており、マーケット全体が弱含む中でも、株主還元姿勢が際立っています。 - ブッキング・ホールディングス(BKNG)
旅行需要の回復を背景に業績が改善している中、余剰資金を株主還元に回す姿勢が明確です。テクノロジーによる収益効率化とあわせて、株価上昇のポテンシャルがあると見られています。 - メルク(MRK)
医薬品大手として安定した売上と利益を誇り、コロナ後の医療需要回復も追い風に。2025年も強固な財務基盤を武器に、積極的な自社株買いを継続する姿勢を示しています。
自社株買いを見極めるには、企業分析が不可欠
自社株買いは株主還元策の一つであり、経営の意思を示すシグナルでもあります。しかし、その効果は企業の財務状況や市場環境、株価水準などに大きく左右されます。
特に2025年のように市場がボラタイルな年では、「いつ、どの企業が、どの規模で」自社株買いを行っているかを正確に把握することが重要です。今回取り上げた 注目の5社 は、そうした条件を満たした銘柄として投資家の関心を集めています。
自社株買いのニュースに振り回されず、背景を丁寧に読み解くことで、より確度の高い投資判断につながる可能性があります。