量子コンピューター関連株が再び注目を集めています。人工知能(AI)チップの開発で知られるエヌビディア(NVDA)が開催した「量子デー」では、大きな発表がなかったことが市場の失望を招き、関連銘柄が前日に引き続き下落しました。
エヌビディアの「量子デー」は市場の期待に応えられず
エヌビディアはAIチップのリーダーとして知られていますが、今回の量子コンピューティングイベントでは、投資家が期待していたような新たな進展や発表がほとんど見られませんでした。このため、イベント終了後の3月21日、量子コンピューター関連銘柄の株価はまちまちの展開となりました。
具体的には、ディーウェーブ・クオンタム(QBTS)が4.6%下落、リゲッティ・コンピューティング(RGTI)が1.8%下落しました。一方で、イオンキュー (IONQ)は3.7%の上昇を見せています(米国東部夏時間14:00現在)。
量子コンピューター市場は依然として不安定
量子コンピューティング業界は、これまでにも高いボラティリティが見られました。多くの企業が未だ赤字を計上しており、株価はニュースやイベントに左右されやすい傾向にあります。
特に注目されたのは、ディーウェーブが20日に大幅下落し、終値で18%の下落となった点です。これは、同社が最近発表した科学論文の信頼性に対する疑問が原因と考えられます。
この論文では、ディーウェーブの「Advantage2」システムが、ヒューレット・パッカード・エンタープライズのスーパーコンピューター「フロンティア」では100万年かかる材料シミュレーションをわずか20分で完了したとされています。しかし、その後の検証で、より高性能な古典的コンピューターシステムでも同様の結果が出せる可能性があるとの指摘が相次ぎました。
科学的な議論は分かれるも、量子の可能性は否定されず
ヒューレット・パッカード・ラボの技術者マスード・モセニ氏は、ディーウェーブが行った抽象的な磁気系のシミュレーションは、実用的な量子コンピューティングへの重要な一歩だと評価しています。古典的なアルゴリズムによる代替は一部に限られ、ディーウェーブの主張には一定の価値があると語っています。
一方で、リゲッティ・コンピューティングとアイオンQも20日に9%の下落を記録するなど、関連銘柄全体に売りが波及しました。
クオンタム・コンピューティング社の決算も株価下落要因に
量子関連株の下落には、クォンタム・コンピューティング(QUBT)の決算発表も影響しています。2024年第4四半期の売上は前年の7万5,000ドルから6万2,000ドルに減少しました。さらに、営業費用は660万ドルから890万ドルに増加し、財務状況の悪化が懸念されました。
その結果、同社の株価は20日に12%下落した後、21日にも1.6%の下落となりました。
マイクロソフトとアマゾン・ドット・コムも量子分野に参入
イベントの最後には、マイクロソフト(MSFT)とアマゾン・ドット・コム(AMZN)の代表者が登壇し、両社の量子分野への取り組みについて説明しました。
マイクロソフトは「マヨラナ1」チップで新たな物質状態を実現したと発表しましたが、その科学的根拠については専門家の間で懐疑的な意見も出ています。過去にネイチャー誌に掲載された関連論文はすべて撤回されており、トポロジカル量子ビットの存在を完全には証明できていないのが現状です。
量子分野の商用化は依然として難航
量子コンピューターの開発は直線的な進歩ではなく、未解決の課題も多いため、大規模な商用展開にはまだ時間がかかっています。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者は、今年の1月にこの技術の商業的な実用化には数十年を要する可能性があると語り、それが株価の急落を招いた経緯もあります。フアン氏は「量子コンピューティングのインパクトを証明するために、私が間違っていなければならないのだとしたら、それは任務完了ということです」と述べ、市場に深い印象を残しました。
今後の展望と課題
エヌビディアは、量子システム開発を加速させるため、ボストンに新施設を設立すると発表しました。同社はクオンティニュームやクエラ・コンピューティングといったパートナーと共に、エラー訂正という最大の技術的課題に取り組んでいます。
しかしながら、たとえエヌビディアの支援があったとしても、量子関連株は短期的には圧力を受けやすい状況が続いています。投資家は今後も、技術的ブレイクスルーと商用化への道のりを注視する必要があります。