エヌビディア(NVDA)は3月19日、量子コンピューティングとスーパーコンピューターの統合を目指す、量子コンピューティング研究センター「Nvidia Accelerated Quantum Research Center(NVAQC)」を設立すると発表しました。量子技術の最も困難な課題の解決に取り組むことを目標とし、特に量子ビットのノイズなどの問題に焦点を当てています。
量子コンピューティングとスーパーコンピューターの統合
エヌビディアは、量子コンピューターと最先端のスーパーコンピューターを統合することで、それぞれの強みを生かしながら計算能力を向上させることを目指しています。このアプローチは、ドイツのユーリッヒ・スーパーコンピューティング・センターがディーウェーブ・クオンタム(QBTS)のアドバンテージ・システムとエクサスケール・スーパーコンピューターを統合する試みと同様のものです。
量子技術は、従来のスーパーコンピューターが処理できる計算の制約を克服する可能性があり、AIや科学研究、金融モデリングなどの分野で大きな影響を与えると考えられています。
NVAQCの研究内容とパートナー企業
NVAQCでは、量子コンピューティング分野における最も差し迫った問題の解決に取り組みます。その中でも、量子ビットのノイズ問題は、量子コンピューターが計算の精度を保つうえで大きな課題となっており、商業規模での普及を妨げる要因となっています。
このプロジェクトには、ケンブリッジ・クアンタムとハネウェル・クアンタム・ソリューションズが合併して設立されたソフトウェア企業クオンティニュアムのほか、量子マシンズ、クエラ・コンピューティングといった民間企業がパートナーとして参加します。これらの企業は、それぞれ独自の量子技術の開発を進めています。
AIスーパーコンピューターGB200 NVL72を活用
エヌビディアの研究者たちは、量子コンピューティングアプリケーション向けに開発された最も強力なハードウェアの一つとされる「GB200 NVL72ラックスケールシステム」を使用します。このシステムは、大規模言語モデルのトレーニングや、その他の高負荷な計算タスクをサポートするために設計されており、量子技術との統合によってさらに強力なコンピューティング環境が構築されると期待されています。
研究拠点はボストンに設立、MITやハーバード大学の研究者を採用
エヌビディアは、NVAQCの拠点をボストンに設立する計画です。さらに、マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学の量子研究グループと協力し、優秀な研究者を採用して開発を進めます。
これまでのところ、エヌビディアは独自の量子プロセッサーを開発する計画を発表していませんが、クラウドベースの量子アルゴリズム開発プラットフォームを提供しています。NVAQCの設立は、量子分野への本格的な参入を示唆している可能性があり、今後の展開が注目されています。
エヌビディアと量子コンピューティング市場の競争
エヌビディアはAI市場において圧倒的な地位を確立しており、時価総額では世界最大の半導体企業となっています。しかし、量子コンピューティングの分野では、IBMや量子専業企業の努力と比較すると、まだ発展途上にあります。
同社のジェンスン・フアンCEOは2025年1月、「有用な量子コンピューターが実現するのは数十年先になる」と発言しました。この発言は、量子コンピューターがAI市場におけるエヌビディアの優位性に影響を及ぼす可能性について議論を呼びました。
研究者や金融関係者の間では、量子技術とAIは相乗効果を持ち、量子技術がAIアルゴリズムの効率化を促進し、データセンターの負担を軽減すると考えられています。クオンティニュアムは、2025年初頭に発表したブログ記事で、量子技術は「より持続可能で効率的かつ高性能なソリューションを提供し、AIを根本から再構築する」と述べています。
NVAQCの今後の展望とエヌビディアの戦略
NVAQCの運用開始後、エヌビディアが量子コンピューティング分野でリーダーシップを確立できるかどうかは不透明です。同社は2025年後半のNVAQCの本格始動を目指しており、3月21日に開催される「エヌビディア GTCカンファレンス」の一環として「Quantum Day」を開催し、量子コンピューティングの戦略についてさらに詳しく説明する予定です。
エヌビディアの量子技術への取り組みはまだ初期段階ですが、AIとの融合によって新たな成長機会を生み出す可能性があります。今後の動向を注視することが重要です。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA