カリフォルニア州サンノゼで開催されたエヌビディア(NVDA)の年次イベント「GTC 2025」は、AI業界において最も注目されるイベントの一つとなりました。エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、次世代AIチップ「ブラックウェル・ウルトラ」や、新しいパーソナルAIスーパーコンピュータの計画などを発表しました。
しかし、投資家の期待には応えきれなかったようで、株価は発表後に3%以上下落しました。本記事では、GTC 2025での主要な発表内容を分析し、AI市場の今後の展望について考察します。
AI市場の中心で進化を続けるエヌビディア
エヌビディアは、AI分野でのリーダーシップを維持するため、次世代技術の開発に積極的に取り組んでいます。今回のGTCでは、特にヒューマノイドロボット向けの新しいAIプラットフォーム「Isaac GR00T N1」が発表されました。ウォルト・ディズニー(DIS)やグーグル傘下のディープマインドと共同開発しており、今後外部の開発者にも公開される予定です。
これは、AIの活用領域が単なるデータ処理から、物理世界でのロボティクスや自動化へと広がっていることを示しています。フアンCEOは、この技術が産業ロボットやヒューマノイドの開発を加速させる可能性があると述べています。
AI支出の増加と投資家の不安
ブルームバーグ・インテリジェンスのレポートによると、2025年における大規模データセンター事業者(ハイパースケーラー)のAI設備投資は前年比44%増の3,710億ドルに達すると予測されています。この成長率は、以前の市場予測を上回るものです。
一方で、投資家の不安も拭いきれません。特に、中国のAI企業ディープシーク(DeepSeek)が少ないリソースで高性能なAIモデルを開発したことが報じられたことで、「エヌビディアの高額なチップが本当に必要なのか?」という疑問が市場に広がりました。
また、エヌビディアの最大顧客であるマイクロソフト(MSFT)やアマゾン(AMZN)のAWSが引き続き投資を継続する意思を示しているものの、AI支出の増加が持続する保証はありません。ウォルフ・リサーチのアナリストは「AI関連企業は景気後退懸念によって大きな影響を受けており、クラウド企業がAI投資を削減する可能性がある」と指摘しています。
次世代チップ戦略:「ブラックウェル・ウルトラ」と「ヴェラ・ルービン」
エヌビディアは、次世代AIプロセッサ「ブラックウェル・ウルトラ」を2025年後半に投入する計画を発表しました。さらに、2026年後半には「ヴェラ・ルービン」と呼ばれる大幅なアップグレードを行う予定です。この名前は、暗黒物質の存在を発見した天文学者ヴェラ・ルービン氏にちなんでいます。
フアンCEOは、チップの進化がAIコンピューティングの飛躍的な成長を促進すると強調しています。特に、シリコンとフォトニクス(光波)を組み合わせた新技術の導入により、AI処理速度が大幅に向上する可能性があるとのことです。
2027年以降にさらなる進化版チップが登場することも示唆されました。フアンCEOは次の世代のチップは、ファインマンと名付けられる予定だと発言。この名前は、量子力学に貢献したアメリカの理論物理学者、リチャード・ファインマンにちなんだものだろう推測されており、量子コンピューティングとの統合も視野に入れていると考えられます。これにより、AIの計算能力が飛躍的に向上することが期待されています。
供給不足と利益率の圧迫
エヌビディアは、新世代チップの開発と同時に供給問題にも直面しています。ブラックウェルの初期バージョンでは、一部の技術的修正が必要であったため、リリースが遅れました。
また、クラウドベンダー向けに大量のチップを供給するために生産能力を増強していますが、需要に追いつくためのコストが利益率を圧迫する可能性があります。フアンCEOによると、2024年には主要クラウド企業(アマゾン、マイクロソフト、グーグル、オラクル)が130万個のAIチップ「ホッパー」を購入したのに対し、2025年には360万個のブラックウェルチップを購入しているとのことです。
この急激な需要の増加は、エヌビディアのチップが依然として市場で不可欠であることを示しています。しかし、競争が激化する中で、他の企業がコスト効率の高いソリューションを提供する可能性もあります。
まとめ:エヌビディアの今後の展望
エヌビディアは、AI市場でのリーダーシップを維持するため、技術革新を続けています。次世代チップ「ブラックウェル・ウルトラ」や「ヴェラ・ルービン」の投入、新しいAIスーパーコンピュータの開発、ロボティクス分野への進出など、多岐にわたる戦略を展開しています。
しかし、競争の激化や景気後退リスク、貿易戦争の影響など、多くの課題も抱えています。投資家にとっては、エヌビディアの成長が持続可能かどうかを見極めることが重要になりそうです。
今後の焦点は、2026年以降のAI設備投資の動向や、クラウド企業のAI支出の継続性にあります。エヌビディアが引き続き市場をリードし続けるのか、それとも競争が激化する中でシェアを奪われるのか、注目が集まります。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA