ロイターが3月12日に報じたところによると、TSMCとして知られる台湾積体電路製造(TSM)が米国の半導体大手インテル(INTC)の工場運営を担う可能性が浮上しているそうです。TSMCはエヌビディア(NVDA)、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、ブロードコム(AVGO)など主要な半導体メーカーに対し、この合弁事業への出資を打診しているとのことです。
この報道について、専門家の間では「米国の半導体業界の構造が大きく変わる可能性がある」との見方が広がっています。特に、TSMCが主導権を握る形でインテルの製造ラインを運営することになれば、米国政府や業界関係者にとっては一大転換点となります。
TSMCとインテルの協力が持つ意味とは?
今回の報道が注目されるのは、単なる企業間の協力ではなく、米国政府の産業戦略と密接に関係している点です。米国はこれまで、半導体製造の国内回帰を推進し、インテルの再建を重要視してきました。しかし、インテルは2024年に1,880億ドルの赤字を計上するなど、経営環境は厳しく、かつての競争力を取り戻せていません。
そこで、TSMCがファウンドリー(半導体受託製造)事業を運営することで、インテルの製造技術を活用しつつ、TSMCのノウハウを取り入れる案が浮上していると考えられます。
ある市場アナリストは、「TSMCは世界トップのファウンドリー企業であり、技術力と生産効率の高さは業界内でも評価されている。一方で、インテルは自社設計のプロセッサーを製造するための工場を抱えており、収益構造が異なる。両社が手を組めば、新たな半導体製造モデルが誕生する可能性がある」と指摘しています。
市場の反応と今後の展望
このニュースを受け、インテルの株価は3月12日のプレマーケットで一時7%以上の上昇を記録しました。また、エヌビディア、AMD、ブロードコム、クアルコム(QCOM)の株価も小幅ながら上昇し、市場全体に前向きな影響を与えました。TSMCの株価も台湾市場で約1.8%上昇しており、投資家の期待の高さがうかがえます。(市場データはNasdaqおよび台湾証券取引所より)
しかし、一方で「インテルの独立性をどこまで維持できるのか?」という懸念もあります。特に、インテルの経営陣の一部はTSMCとの提携に対して慎重な姿勢を示しているとの報道もあり、企業文化や技術的な統合に時間がかかる可能性があります。
また、技術面でも課題が残ります。インテルは自社の「18A」製造技術がTSMCの次世代「2ナノメートルプロセス」よりも優れていると主張していますが、TSMCがこの主張をどこまで受け入れるのかは不透明です。これにより、合弁事業の詳細を詰める段階で交渉が難航する可能性も指摘されています。
米国政府の影響と最終決定の行方
米国政府としては、インテルの完全な外国資本化を避けたい意向があるとみられています。トランプ大統領は以前から「米国内での半導体製造強化」を掲げており、TSMCが過半数の株式を保有しない形での合弁事業が模索されているようです。
市場関係者の間では、「TSMCが持ち株比率を50%未満に抑えることで、米国政府の承認を得やすくなる可能性が高い」との意見もあります。また、TSMCが米国内で1,000億ドル規模の新たな投資を発表したことも、この動きと密接に関連しているとみられています。
まとめ:米国半導体業界の未来はどうなるのか?
今回の報道が示すのは、半導体業界における米中対立の影響が続く中で、米国政府がインテルを戦略的企業としてどのように再生させるのかが重要なテーマとなっているということです。
TSMCがインテルのファウンドリー事業に関与することで、米国の半導体産業が再編される可能性が高まります。ただし、技術面や経営方針の違い、さらには米国政府の意向といった要素が絡み合うため、最終的な決定には時間がかかりそうです。
この合弁事業が成立すれば、米国半導体業界の競争力向上につながる可能性がありますが、一方でインテルがこれまで築いてきた独立した半導体製造モデルが変わることになるかもしれません。今後の展開を注視する必要があります。