今回の決算シーズンでは、ウォール街が人工知能(AI)関連企業の評価に対してより厳しいアプローチを取っており、多くの有名な半導体銘柄が打撃を受けています。特に、AI技術の進化を牽引してきたエヌビディア(NVDA)が大きな影響を受けています。
半導体セクター全体に広がる影響
1月27日以降、PHLX半導体指数(SOX)は約1兆400億ドルの市場価値を失いました。この下落の大部分を占めるのがエヌビディアで、約7,830億ドルの市場価値を喪失しています。これは、ディープシークの登場により、将来のAI開発には従来考えられていたよりも安価なハードウェアが必要になる可能性が市場に反映され始めたためです。
エヌビディアの株価は、S&P500種株価指数(SPX)およびPHLX半導体指数の両方に対して劣後しています。競合する半導体企業のブロードコム(AVGO)やマーベル・テクノロジー(MRVL)も同様の影響を受けていますが、エヌビディアほどの市場価値喪失には至っていません。
現在の時価総額は、エヌビディアが2兆7,600億ドル、ブロードコムが9,140億ドル、マーベル・テクノロジーが610億ドルとなっており、エヌビディアの市場規模の大きさが影響をより深刻なものにしています。
マグニフィセント・セブンの中でエヌビディアの下落が際立つ
米国の主要テクノロジー企業「マグニフィセント・セブン」の中では、テスラ(TSLA)を除いて、エヌビディアの株価下落が最も顕著となっています。テスラの株価も低迷していますが、その下落幅はエヌビディアほどではありません。
また、エヌビディアの時価総額は、1月6日に記録したピークから約9,000億ドルも減少しています。
エヌビディアの今後の展望と課題
エヌビディアは、次世代AIチップ「ブラックウェル」の提供を通じて、今後の成長機会を見込んでいます。3月に開催予定の年次GTCカンファレンスでは、同社の製品ロードマップについてさらなる情報が提供されると期待されています。
しかし、投資家の間では、エヌビディアの業績に対する懸念が高まっています。特に、AIサイクルの初期段階で示していたような大幅な成長見通しを提示できていない点が課題とされています。また、「ブラックウェル」への移行が粗利益率を圧迫する可能性があることも不安材料の一つです。
AI半導体市場でのブロードコムの評価
米国みずほ証券のアナリスト、ジョーダン・クライン氏は、ブロードコムが現在、AI半導体市場で「最も優れた企業の一つ」と見なされている可能性を指摘しています。ブロードコムはエヌビディアほどの規模ではありませんが、その分、AI関連の売上拡大余地が大きいと評価されています。また、同社の特定用途向け集積回路(ASIC)に対する市場の評価も高まりつつあります。
半導体セクター全体の動向
ブロードコムの決算は好調でしたが、ディープシークの登場以降、同社の株価はエヌビディアを大きく上回ることはありませんでした。エヌビディアの株価が21%下落する中、ブロードコムの株価も20.3%の下落となっています。
一方で、非AI関連の半導体企業は、S&P500やPHLX半導体指数に比べて持ちこたえています。S&P500は5.3%下落、PHLX半導体指数は13.2%下落しているものの、アナログ・デバイセズ(ADI)やNXPセミコンダクター(NXPI)はそれぞれ4.4%、4.3%の上昇を記録しています。
アナログ・チップメーカーへの資金流入
半導体市場では、AIチップ以外の分野、特にアナログ・チップメーカーへの資金流入が進んでいます。シティ・リサーチのアナリスト、クリストファー・ダネリー氏は、アナログ・デバイセズの経営陣による前向きな市場コメントを受け、NXPセミコンダクターの株価に強気な見方を示しました。
同氏は、自動車市場にはまだ課題が残るものの、産業市場のトレンドは改善していると指摘しています。これにより、半導体業界内での資金の流れが、AI関連企業からアナログ・チップメーカーへとシフトしている可能性があります。
まとめ
ウォール街は、AI関連企業に対してより慎重な評価を行っており、エヌビディアを中心に半導体セクターの株価が影響を受けています。特に、ディープシークの登場による市場の変化が、AI半導体の将来像に影響を与えています。
その一方で、アナログ・チップメーカーのような非AI関連の半導体企業が比較的安定している点も注目に値します。今後、エヌビディアが新製品「ブラックウェル」を通じて市場の信頼を回復できるかが、大きな焦点となります。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA