GLP-1減量薬市場が大きく変化しています。食品医薬品局(FDA)が、ノボ・ノルディスク(NVO)のセマグルチド(オゼンピック、ウェゴビー)がもはや不足状態ではないと発表したことを受け、違法ではないがグレーゾーンとされる模造品の市場が縮小する可能性が高まっています。
こうした中、イーライ・リリー(LLY)は自社のGLP-1減量薬「ゼップバウンド(Zepbound)」の廉価版を値下げし、市場での優位性を強調しています。
FDAの決定がもたらす影響
FDAの発表により、調合業者は今後数カ月以内に合法的な模造品のセマグルチドの製造・販売を中止する必要があります。これにより、安価なGLP-1薬を提供する遠隔医療プラットフォームのビジネスモデルに影響が及ぶと考えられています。
イーライ・リリーの「チルゼパチド(tirzepatide)」は、「ゼップバウンド」および「マウンジャロ(Mounjaro)」として販売されており、昨年末にFDAの不足リストから外れました。これにより、同社の供給能力が安定し、価格競争に本格的に参入できる状況になっています。
テレヘルス企業ヒムズ&ハーズ・ヘルスの苦境
テレヘルス企業であるヒムズ&ハーズ・ヘルス(HIMS)は、2024年5月から配合セマグルチドの販売を開始し、株価は350%以上上昇しました。しかし、FDAの発表後、同社はセマグルチド注射剤の販売方針を変更する必要があると認めました。この影響を受け、同社の株価は2月25日の米国市場の午後1時半過ぎの段階で22.7下落しました。
このような状況の中、イーライ・リリーは、模造品のGLP-1薬に代わる選択肢を求める消費者に向けて、価格を引き下げた廉価版「ゼップバウンド」を提供する動きを加速させています。
イーライ・リリーの価格戦略
イーライ・リリーは、数カ月前から自社のオンライン薬局「リリーダイレクト(LillyDirect)」を通じて、現金払いの患者向けに「ゼップバウンド」の廉価版を販売しています。この廉価版は、自動注射器ペンではなく、バイアル形式で提供されています。
25日には、リリーダイレクトの販売価格をさらに引き下げ、新しい用量も追加すると発表しました。具体的な価格は以下の通りです。
- 2.5mg:月額399ドル → 月額349ドル
- 5mg:月額549ドル → 月額499ドル
また、7.5mgおよび10mgの用量もリリーダイレクトで販売されています。通常の医薬品ルートで販売される「ゼップバウンド」は自動注射器入りで1カ月1,086ドルとされており、リリーダイレクトでの廉価版はそれよりも安価に提供されています。
GLP-1配合剤との価格差
新価格であっても、リリーダイレクトで販売される「ゼップバウンド」は、GLP-1配合剤よりも依然として高額です。ヒムズ&ハーズは、セマグルチド配合剤を12カ月分前払いした場合、1カ月165ドルで販売しており、コスト面では優位性があります。
ただし、廉価版「ゼップバウンド」はFDAの承認を受けた製品である一方、調合業者のGLP-1配合剤は、品質管理や有効性に対する懸念が指摘されることもあります。特に、FDAの不足リストから外れたことで、配合剤の市場縮小は避けられない状況となっています。
投資家の反応
GLP-1市場の変化により、製薬企業の株価にも影響が出ています。25日の米国市場の午後1時半過ぎの段階で、イーライ・リリーの株価は2.37%上昇し、902.31ドルとなりました。
また、他の大手製薬企業も概ね上昇しました。
- ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ):1.34%上昇
- ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMY):1.37%上昇
- メルク(2):0.5%下落
- ファイザー(PFE):0.11%上昇
今後の展望
GLP-1市場では、今後もイーライ・リリーとノボ・ノルディスクの2大企業が主導権を握ると予想されます。特に、GLP-1配合剤の供給が制限される中、両社は正規ルートでの販売戦略を強化し、市場シェアを拡大していくと考えられます。
一方で、保険適用が難しい患者にとっては、コストが依然として大きな課題です。今後の価格競争がどのように展開されるかが、消費者と投資家の関心を集めるポイントとなりそうです。