米国の証券会社TDカウエンは、マイクロソフト(MSFT)が米国内のデータセンターのリース契約をキャンセルし始めたと報告しました。これは、同社がAI向けのコンピューティング能力を過剰に構築している可能性があることを示唆する動きとも解釈されています。マイクロソフトは2025年度にAIデータセンターに800億ドルを投資すると予想されているものの、この決定はAIの需要見通しに慎重な姿勢を取っていることを示しているのかもしれません。
データセンターリースキャンセルの背景
TDカウエンのリサーチによると、マイクロソフトは「数百メガワット」のデータセンター容量のリースを無効にしました。さらに、正式なリース契約につながる「Statement of qualifications(資格証明書)」の変換も停止したとのことです。この戦略は、過去にメタ・プラットフォームズ(META)が資本支出を削減する際に採用したものと似ています。
また、マイクロソフトの国際的な投資が米国内にシフトしていることも指摘されています。これにより、「国際的なデータセンターのリースが大幅に減速している可能性がある」と分析されています。
マイクロソフトのAI投資戦略は変わるのか?
今回のリース契約のキャンセルは、マイクロソフトがAIインフラ投資を見直し始めた可能性を示唆しています。同社のサティア・ナデラCEOは1月の決算発表で、「指数関数的に増大する需要」に対応するため、AIデータセンターへの支出を続ける必要があると述べていました。しかし、最新の動向を見ると、同社はAI関連の設備投資を一部見直している可能性があります。
TDカウエンのアナリストは、マイクロソフトの撤退がオラクル(ORCL)などの代替パートナーへのシフトを反映している可能性を指摘しています。とはいえ、サードパーティのデータセンター全体の需要に対する影響は「正味中立」との見解も示されています。
マイクロソフトの広報は「成長を継続」とコメント
マイクロソフトはこの件について詳細なコメントを避けましたが、6月末までの会計年度の支出目標を改めて示しました。また、同社の広報担当者は、「戦略的にペースを調整することはあるが、全地域で力強い成長を続けている」と述べています。
マイクロソフトの動きが市場に与えた影響
この報道を受けて、エネルギー部門に関連するヨーロッパの株式市場では下落が見られました。特に、シュナイダー・エレクトリックSEやシーメンス・エナジーAGの株価が下落しています。これは、データセンター向けの電力インフラ投資が減少する可能性が影響していると考えられます。
AI投資に対する市場の疑念が強まる
マイクロソフト、メタ、アマゾン・ドット・コム(AMZN)などの大手企業は、AIサービスの訓練や開発、ホスティングのために巨額の資金を投じています。しかし、一部の批評家は、AIの実用的な活用事例がまだ少ないことを指摘しています。
特に、最近中国の新興企業ディープシーク(DeepSeek)が新しいオープンソースのAIモデルを発表したことで、巨額の投資が本当に必要なのかという疑問が高まっています。同社のモデルは、米国の大手テクノロジー企業と同等の能力を、はるかに低コストで実現できると主張しています。
マイクロソフトのAIインフラ投資は過剰なのか?
TDカウエンのアナリスト、マイケル・エリアス、クーパー・ベランジャー、グレゴリー・ウィリアムズは、「なぜマイクロソフトがこの決定を下したのか、まだ十分な情報を得られていない」としながらも、「供給過剰の可能性がある」との初期評価を示しました。
マイクロソフトの幹部は、AI向けの設備投資が過剰になっているとの懸念を否定しています。同社は、歴史上最も多額の投資を行っており、その大部分はAIサービスのためのチップやデータセンターに充てられています。しかし、今回のリースキャンセルの動きは、同社のAI投資戦略が変化し始めている兆候かもしれません。
今後の展望
マイクロソフトがデータセンター投資のペースを調整する中で、AIインフラの需要がどのように推移するかが注目されます。現在のところ、同社は成長戦略を維持する方針を示していますが、今後の市場動向や競争環境の変化によっては、さらなる見直しが行われる可能性もあります。
AI市場の成長が本当に「指数関数的」に続くのか、それとも一時的なバブルなのか、今後の動向を引き続き注視する必要があります。
*過去記事はこちら マイクロソフト MSFT