近年、ビデオゲーム業界では、大手パブリッシャーとコアなプレイヤーとの関係が大きく変化しています。米国の投資情報メディア「マーケットウォッチ」が掲載した記事「Videogame giants are spending more money but losing players — and profits」によると、ユービーアイソフト・エンターテインメント(UBI)、ソニーグループ(SONY)、エレクトロニック・アーツ(EA)などの大手企業が、プレイヤーの期待から乖離しつつあると指摘されています。
この記事では、ゲーマーの嗜好の変化や、大手パブリッシャーが直面する課題について詳しく解説されています。本記事では、その内容を紹介しながら、業界の現状について考察していきます。
ゲーマーの嗜好の変化とライブサービスゲームの衰退
マーケットウォッチの記事によると、最近のプレイヤーは繰り返しの多いゲームプレイや陳腐なメカニクスに飽き、より革新的で本物志向の体験を求めているとのことです。その中で、「ライブサービス」ゲームの人気が急速に低下している点が注目されています。
ライブサービスゲームは、無限にプレイでき、継続的に収益化できるように設計されています。しかし、プレイヤーは有意義な進歩や達成感を得られないことに不満を抱くようになり、こうしたタイトルから離れる傾向が強まっています。代わりに、「エルデンリング」や「ゴッド・オブ・ウォー:ラグナロク」などのシングルプレイヤー向けの高品質な作品が成功を収めています。
インディーズゲームの躍進
一方で、「Hades」「Celeste」「Hollow Knight」といったインディーズゲームは、プレイヤーの心をつかみ、大規模な予算をかけた作品を凌ぐ人気を獲得しています。マーケットウォッチの記事では、これらのゲームがシンプルで洗練された体験を提供し、本物志向のゲームプレイがプレイヤーに支持されていると述べています。
ユービーアイソフトの苦境:「スター・ウォーズ 無法者たち」の失敗
大手パブリッシャーの中でも、ユービーアイソフトは特に厳しい状況に直面しています。同社はかつて業界をリードする存在でしたが、近年はプレイヤーの期待を裏切ることが多く、売上の低迷が続いています。その代表例として、2024年に発売された「スター・ウォーズ 無法者たち」が挙げられます。
この作品は3億ドルの開発費を投じたにもかかわらず、発売から1か月でわずか100万本しか売れませんでした。マーケットウォッチの記事では、この失敗の背景として、ゲームが魅力に欠け、無難な世界観になってしまったことが影響していると指摘しています。
また、無料プレイのシューティングゲーム「エックスディファイアント」も、1,100万人のユニークプレイヤーを獲得する好調なスタートを切ったものの、最終的には閉鎖を余儀なくされました。競争が激しい市場で強いアイデンティティを確立できなかったことが原因とされています。
「アサシン クリード ミラージュ」の成功とユービーアイソフトの今後
一方で、ユービーアイソフトのすべてのプロジェクトが失敗しているわけではありません。2024年に発売された「アサシン クリード ミラージュ」は、シリーズの原点に立ち返った作品として好評を博し、2億5000万ドルの売上を記録しました。この成功は、シリーズのコアなアイデンティティを尊重し、よく練られた体験を提供することが依然として重要であることを示しています。
しかし、ユービーアイソフトは今後5年間で*「アサシン クリード」シリーズを10作リリースする計画を立てており、この方針に対しては批判的な意見も多く聞かれます。また、期待されていた「アサシン クリード シャドウズ」の発売が2度延期され、現在は2025年3月に発売が予定されています。この影響で同社の株価は下落しました。
業界全体の苦境とパブリッシャーの課題
マーケットウォッチの記事では、ユービーアイソフトの苦境は特殊な事例ではなく、エレクトロニック・アーツやソニーグループも同様の問題に直面していると指摘しています。
例えば、エレクトロニック・アーツの「バトルフィールド2042」は、コア機能の欠如やヒーローベースのシステムが不評を買い、プレイヤー数が発売数か月で90%も減少しました。また、「Anthem」はライブサービスモデルに固執した結果、未完成なコンテンツが批判され、失敗に終わりました。
ソニーグループの「コンコード」も4億ドルを投じたものの、ゲームプレイの独自性の欠如や政治的な要素の押し付けが不評を買い、発売直後に販売中止となりました。この事例は、時代遅れのメカニクスや、プレイヤーの嗜好を無視した作品が市場で成功しないことを示しています。
パブリッシャーが信頼を取り戻すために
マーケットウォッチの記事では、ゲーム業界全体がプレイヤーの求める体験と乖離しつつあると指摘されています。特に、物語やキャラクターを政治的に利用する傾向が強まることで、従来のオーディエンスが疎外されるケースが増えています。
プレイヤーは、意味のあるストーリーや本物志向のゲーム体験を求めており、型にはまったゲームプレイや無理に多様性を強調した内容には興味を示さなくなっています。この点を無視した結果、大手パブリッシャーは市場のニーズを見誤り、売上の低下を招いています。
まとめ
ビデオゲーム業界は、大きな変革期を迎えています。ライブサービスゲームの衰退やインディーズゲームの台頭が示すように、プレイヤーはより質の高い体験を求めています。マーケットウォッチの記事では、大手パブリッシャーが生き残るためには、プレイヤーの意見を尊重し、信頼を再構築する必要があると述べています。
今後、ユービーアイソフト、エレクトロニック・アーツ、ソニーグループがどのような戦略を取るのかに注目が集まります。