米国の医療保険大手ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)の株価が2月21日の米国市場で急落しました。これは、米国司法省が同社のメディケア請求に関する民事詐欺調査を開始したという報道を受けたものです。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、今回の調査は、ユナイテッドヘルスが提供するメディケア・アドバンテージ・プランに関連する診断の文書化手法を対象としています。報道を受け、同社の株価は一時8.9%下落し、455.34ドルとなりました。これは、2020年3月18日以来の大幅な下落率です。
メディケア・アドバンテージの請求慣行が調査の対象に
現在のメディケア制度では、連邦政府が加入者の給付を管理するために保険会社に毎月一定額を支払っています。支払い額は、患者の診断内容によって増減する仕組みとなっており、診断データの正確性が重要視されています。
米国保健福祉省の監察総監室(OIG)が2024年10月に発表した報告書では、ユナイテッドヘルスが診断情報の収集において「業界の中でも特に目立つ存在」であると指摘されました。特に、同社が在宅の健康リスク評価(HRA)とカルテレビューを活用していることが「悪用されやすい」とされ、リスク調整支払いの方法について批判を受けていました。
OIGの報告書によると、「メディケア・アドバンテージ加入者の裏付けのない診断に基づいて、保険会社に毎年数十億ドルの過払いが発生している」とされています。
ユナイテッドヘルス・グループの反応
ユナイテッドヘルスは、この報道に対し、「誤った情報」であると否定し、不正行為の示唆は「言語道断で虚偽である」と強く反論しました。
また、同社は「政府はすべてのメディケア・アドバンテージプランを定期的にレビューしており、当社は常に業界最高水準のパフォーマンスを発揮している」とコメントしています。さらに、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた「新たな調査」が始まったという事実も認識していないと述べています。
司法省の動きと競争環境への影響
今回の調査報道は、司法省がユナイテッドヘルスによる在宅医療プロバイダー、アメディシスの買収を反トラスト法上の理由で阻止しようとした数カ月後に発表されました。
ユナイテッドヘルスは2023年、アメディシスを33億ドルで買収することで合意していました。しかし、司法省は2023年11月に「この買収はホスピス業界の競争を阻害する」として提訴しました。12月下旬には、アメディシスが裁判所の判決が下るまで、または2025年末までのいずれか早い時期までにユナイテッドヘルスとの合併契約を解除する権利を放棄することに合意しました。
同業他社への影響
このニュースを受け、同業他社の株価も下落しました。
- ヒューマナ(HUM) -5.31%
- エレバンス・ヘルス(ELV) -0.85%
- CVSヘルス(CVS) -2.08%
市場は、ユナイテッドヘルスの調査が業界全体の規制強化につながる可能性を懸念しています。
アナリストの見解と今後の展望
TDカウエンのアナリストは、市場の反応について「過剰な売り」と評価しました。しかし、短期的にはセンチメント(市場心理)が企業のファンダメンタルズよりも影響を与える可能性があると指摘しています。
また、ユナイテッドヘルスは過去にもメディケア・アドバンテージのリスクコーディング慣行に関する調査を受けており、2017年には司法省が「2011年に内部告発者によって提訴された訴訟内の特定の請求」を追及することを決定していました。
2024年第3四半期の証券取引委員会(SEC)への提出書類では、ユナイテッドヘルスはこの問題が「進行中」であり、結果を予測することは困難であると述べています。
TDカウエンは、ユナイテッドヘルスの株価について「買い」の格付けを維持し、目標株価を609ドルと設定しています。
まとめ
今回の司法省による調査報道は、ユナイテッドヘルス・グループの株価に大きな影響を与えました。短期的には株価の不安定な動きが続く可能性がありますが、アナリストの中には過剰反応と見る意見もあります。
今後、司法省の調査の進展や、ユナイテッドヘルスの対応がどのように影響するかが注目されます。特に、メディケア・アドバンテージの制度改革が業界全体にどのような変化をもたらすかが重要なポイントとなりそうです。
ユナイテッドヘルスの株価が回復するかどうかは、今後の訴訟の展開や規制当局の判断にかかっています。今後の動向に注意が必要です。