米国の半導体大手インテル(INTC)の分割の可能性について、ウォール街では憶測が飛び交っています。特に、ブロードコム(AVGO)がインテルのx86事業を買収する可能性について、投資家の関心が高まっています。
インテルの分割計画とブロードコムの関心
先週末、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたところによると、インテルはチップ設計・販売事業と製造事業の二つに分割される可能性があるとのことです。これに伴い、ブロードコムがインテルのx86事業を買収するかどうかが注目されています。
また、TSMC(TSM)は、投資家コンソーシアムの一員として、インテルのチップ工場の一部または全部を管理することを検討しているとされています。
パイパー・サンドラーの見解:「ブロードコムにとって有利な取引」
米国の投資銀行パイパー・サンドラーのアナリストであるハーシュ・クマール氏は、ブロードコムがインテルのx86事業を買収すれば「非常に有利な取引になる」と述べています。
クマール氏は、以下のような数値を提示しました。
- インテルのx86事業の売却価格:1,010億ドル
- 利息・税金・減価償却費・償却費控除前利益(EBITDA)の比率:約3.47倍
- ブロードコムにとっての1株当たりの利益貢献:約1.50~1.60ドル
また、この買収は全額負債で賄われる可能性が高いと指摘しており、ブロードコムは事業の「整理・再編」を進めることで、インテルのクライアント向けPC用チップ事業を縮小する可能性が高いとされています。
x86事業の買収による影響とAMDとのクロスライセンス契約
インテルのx86事業の売却には、競合企業であるアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)とのクロスライセンス契約の再交渉が必要になる可能性があります。
インテルとAMDは2009年からx86技術のクロスライセンス契約を締結しており、いずれかの会社の支配権が変更された場合に契約が終了する仕組みになっています。このため、ブロードコムがインテルのx86事業を取得した場合、AMDとの契約の再交渉が必要となります。
ただし、クマール氏の試算には、このライセンス再交渉にかかる潜在的なコストが含まれているかは不明です。
AIチップ事業の行方:ブロードコムはガウディ・チップ開発を停止か
インテルは現在、ガウディ・チップと呼ばれるAIチップの開発を進めていますが、ブロードコムがx86事業を取得した場合、この事業を停止する可能性が高いと予測されています。
すでにインテルは、次世代AIチップ「Falcon Shores」の開発を中止しており、AIチップ分野における戦略を見直していると考えられます。
トランプ政権の動きとインテルの株価上昇
2月11日、J.D.バンス副大統領が米国の半導体産業を支援するトランプ政権の計画について前向きなコメントを発表しました。これを受けて、インテルの株価は大きく上昇しました。
さらに、政権はインテルの製造事業について、TSMCが運営を引き継ぐことを含む取引を仲介しようとしていると報じられています。
ブロードコムのM&A戦略と過去の大型買収
ブロードコムは過去10年間で複数の企業を買収し、巨大な技術コングロマリットへと成長してきました。
- 2024年度の総売上:516億ドル
- 2015年度の売上:68億ドル
特に、2015年にはアバゴ・テクノロジーズがブロードコム・コミュニケーションズを370億ドルで買収し、現在のブロードコムの基盤を築きました。
さらに、ブロードコムは以下の企業を買収しています。
- VMware(ソフトウェアメーカー)
- CA Technologies(旧コンピューター・アソシエイツ)
- シマンテック(セキュリティソフトメーカー)
今回のインテルのx86事業買収の可能性も、過去の戦略的買収の延長線上にあると考えられます。
まとめ:ブロードコムはインテルのx86事業を買収するのか?
現時点では、ブロードコムがインテルのx86事業を正式に買収するかは不明ですが、投資家の間では期待が高まっています。
- パイパー・サンドラーの試算では、ブロードコムにとって非常に有利な取引になる可能性
- AMDとのクロスライセンス契約の再交渉が必要
- AIチップ事業の停止の可能性
- トランプ政権の半導体政策がインテル株に影響を与える
ブロードコムのM&A戦略を踏まえると、インテルのx86事業の買収は十分にあり得る選択肢ですが、今後の動向に注目が集まっています。
今後も半導体業界の再編が続く中、インテルの動向とブロードコムの戦略を引き続き注視していくことが重要です。