米国市場では、大型テクノロジー株が長年にわたり高い評価を受けてきました。マイクロソフト(MSFT)、アマゾン(AMZN)、アップル(AAPL)、エヌビディア(NVDA)などの企業は、競争優位性の高いビジネスモデルと強固な収益基盤を持ち、投資家からの期待が大きい銘柄です。しかし、現在の貿易摩擦や関税政策の影響を考慮すると、市場が見落としているリスクがあるかもしれません。今回は、ハイテク株が直面する関税リスクと、その影響について詳しく解説します。
ハイテク株が高く評価される理由
独自の製品・サービスによる強固なビジネスモデル
マイクロソフトやアマゾンのような企業は、他社が容易に模倣できない製品やサービスを提供し、継続的な売上を確保しています。例えば、アマゾンはまもなくAIアシスタント「ルーファス」を提供しようとしており、プライム会員向けに新たなサービスを展開する可能性があります。こうした独自性が、ハイテク株のプレミアム評価を正当化しています。
長年の投資による参入障壁
アップルのiPhoneとApp Storeのように、長年にわたる巨額の投資が競争を排除する強固な壁を築いています。これにより、新規参入者が市場に食い込むことが難しくなり、企業の優位性が長期間維持されます。
競争優位性のある製品
エヌビディアは、生成AIやデータセンター向けの半導体市場で圧倒的なシェアを持ち、競合他社を大きく引き離しています。こうした市場支配力が、株価の高評価を支える要因になっています。
しかし、これらの企業のビジネスモデルが「ほぼ止められない」ものなのか、それとも貿易戦争によって変化するのかを慎重に検討する必要があります。
関税リスクがハイテク株に与える影響
アマゾンの輸入コスト増加
アマゾンは米国内に多くのプライム会員を抱え、Amazon Web Services(AWS)を通じて売上を得ています。しかし、小売業者である以上、多くの商品を海外から輸入して販売しています。
モルガン・スタンレーのアナリスト、ブライアン・ノバク氏によると、アマゾンの販売商品の約3分の2は食料品以外であり、そのうち40%が中国製品だと推定されています。関税が引き上げられれば、輸入コストが増加し、利益率が低下する可能性があります。
現在のアマゾンの株価は、将来の売上の35倍で評価されています。これは、S&P 500の平均的な株価収益倍率(22倍)よりも大幅に高い水準です。このため、市場が関税リスクを十分に織り込んでいない可能性があります。
イーベイの中国依存リスク
イーベイ(EBAY)も関税の影響を受ける可能性があります。ノバク氏によると、イーベイの売上の約11%は中国を拠点とする販売者によるものです。関税が引き上げられれば、中国からの輸入品の価格が上昇し、イーベイの販売者や消費者にとって大きな負担となるでしょう。
アップルの製造コスト上昇
アップルの製品の大半は中国で製造されています。エバコアISIのアミット・ダリヤナニ氏によると、アップルの生産能力の約90%が中国に依存しているといいます。現在、一部のiPhoneはインドで製造され、ウェアラブル製品の一部はベトナムで生産されていますが、それでも中国の生産能力に大きく依存しているのが現状です。
仮に、中国製品に対する追加関税が10%維持され、アップルが適用除外とならなかった場合、ダリヤナニ氏は同社の1株当たり利益(EPS)が3%から4%減少すると予測しています。これは、アップルの株価にも影響を及ぼす可能性があります。
市場が見落としているリスクとは?
市場は、ハイテク株の成長ストーリーに注目するあまり、関税リスクを十分に織り込んでいない可能性があります。たとえ関税が一時的に回避されたとしても、貿易摩擦が続く限り、不確実性は高まります。
アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トルステン・スロック氏は、「貿易戦争の短期的な影響は確かに痛みを伴うものだ。たとえその額が少額であっても、間違いなくマイナス要因となる」と指摘しています。
また、貿易戦争が長期化すれば、企業は生産拠点の移転を検討する可能性がありますが、それには時間とコストがかかります。例えば、アップルがインドでの生産を拡大するには、数年の時間と数十億ドル規模の投資が必要になります。これが企業の利益率に影響を与えるのは明らかです。
まとめ
大型テクノロジー株は、強力なビジネスモデルと市場での競争優位性によって高く評価されてきました。しかし、貿易戦争の影響を考慮すると、これらの企業のコスト構造や利益率が今後どのように変化するのかを慎重に分析する必要があります。
特に、アマゾン、イーベイ、アップルのように、中国との貿易に大きく依存している企業は、関税の影響を受けやすいと考えられます。市場がこれらのリスクを十分に織り込んでいない可能性があるため、今後の展開を注視しながら、投資判断を行うことが求められます。