2025年の決算発表では、大手テクノロジー企業のほとんどが人工知能(AI)データセンターへの資本支出を拡大していることを示しました。その中で、支出を抑えているアップル(AAPL)の戦略が一層際立っています。
投資家の間では、アップルが競合他社と比べてAI関連の投資を控えているため、AI分野で遅れを取っているのではないかという懸念があります。しかし、一部のアナリストは、この慎重な姿勢がむしろ強みになる可能性があると指摘しています。
大手クラウド企業の資本支出がフリーキャッシュフローに与える影響
メリウス・リサーチのアナリスト、ベン・ライツェス氏は、アルファベット(GOOGL)、アマゾン・ドット・コム(AMZN)、メタ・プラットフォームズ(META)、マイクロソフト(MSFT)の4大クラウド企業がAIインフラに巨額の投資を行っていることについて、これによりフリーキャッシュフロー(FCF)に大きな影響が生じ、ウォール街の厳しい監視を受ける可能性が高まっていると指摘しています。
「株式の価値は、将来のキャッシュフローの現在価値(NPV)を反映するものだ」とライツェス氏は述べています。「NPVの計算は日々変化し、リスクを織り込んだ割引率や資本支出、減価償却費の想定などが影響を与える。AIの時代では、これらの要素がさらに複雑になる。」
アップルの慎重な資本支出がもたらす強み
一方、アップルは先週の決算発表で、「非常に慎重かつ綿密なアプローチ」で資本支出を管理していることを明らかにしました。ライツェス氏は、「最終的にアップルが優位に立つ可能性がある」と指摘しています。
「アップルはモバイルAIの分野で『有料道路』のような存在だ。そのため、最終的に優位に立つのはアップルかもしれない」と同氏は述べています。「市場では、企業の設備投資や短期的な指標に注目しがちだが、最も重要なのはフリーキャッシュフローだ。アップルはオープンAIや中国の百度(Baidu)と提携し、パブリッククラウドを活用してAIモデルの訓練やサービスの運営を支援することができる。」
ライツェス氏は、アップルは他の大手テクノロジー企業に過剰な資本支出や営業支出を肩代わりさせる形で、成長戦略を進めていると述べました。この戦略が続けば、今後数年間、アップルは売上の増加に伴い、純利益を上回るフリーキャッシュフローを生み出し続ける可能性があります。一方、競合企業はそのような状況にはなりにくいと指摘しています。
フリーキャッシュフローがもたらす株主還元の余地
2024年度のアップルのフリーキャッシュフローは1,090億ドルで、純利益の1,040億ドルを超えると予測されています。フリーキャッシュフローは純利益を5%上回ることになります。
さらに、アップルは2024年12月期に265億ドルの自社株買いを実施しました。今後も四半期ごとに300億ドル規模の自社株買いを継続する予定であり、この高いフリーキャッシュフロー比率は2027年度まで維持可能だと考えられています。加えて、高価格帯のiPhoneの販売が加速し、売上がさらに増加する可能性があります。
一方で、クラウド企業のフリーキャッシュフローは、今後の売上の動向によっては厳しい状況に陥る可能性があります。2025年度のアルファベット、マイクロソフト、アマゾン、メタのフリーキャッシュフロー予想は、それぞれ純利益予想を29%、33%、24%、34%下回ると指摘されています。
「マグニフィセント・セブン」内でのアップルの相対的な優位性
もし、クラウド関連の売上が予想を下回り、AI業界で新たなイノベーションが見出せない場合、投資家の忍耐は限界に達する可能性があります。その結果、アップルが「マグニフィセント・セブン」の中で相対的に有利な立場に立つことも考えられます。
まとめ
アップルは、競合企業と異なりAIデータセンターへの過剰な投資を行わず、慎重な資本支出戦略を維持しています。その結果、安定したフリーキャッシュフローを生み出し続け、株主還元を強化できる立場にあります。AI分野の競争が激化する中で、この戦略がアップルにとって有利に働くかどうか、今後の動向が注目されます。
*過去記事はこちら アップル AAPL