2025年1月、中国のスタートアップ企業ディープシークが人工知能(AI)チャットボットを発表し、米国で最もダウンロードされた無料のモバイルアプリとなりました。注目すべき点は、ディープシークのAIモデルのトレーニングに約600万ドルがかかったとされており、一部のベンチマークでは米国のトップAIモデルを上回る性能を示したと報告されていることです。
米国のAI企業であるオープンAIがGPT-4のトレーニングに1億ドル以上を費やしたとされているため、ウォール街の投資家の間では、AIインフラへの過剰な支出が懸念されました。その結果、エヌビディアの株価はこのニュースを受けて17%下落し、時価総額が6000億ドル減少するという、米国市場史上最大の1日での下落を記録しました。
エヌビディアの株価は2月7日現在で今年に入り約3%下落しており、1月6日に記録した過去最高値149.43ドルからは13%の下落となっています。
ディープシークのコスト削減戦略に対する懐疑的な見方
ディープシークの技術的な進歩に関して、多くのアナリストが評価しています。同社は、革新的なトレーニング手法を活用することでデータ処理コストを削減し、AIモデルのトレーニングにかかる経費を抑えました。
しかし、一部のアナリストは、ディープシークが報告しているインフラコストや関連費用が正確であるかについて疑問を呈しています。例えば、ウェドブッシュ証券のアナリストであるダン・アイブス氏は、「ディープシークが600万ドルのコストで構築され、エヌビディアの次世代ハードウェアを使用していないというのは信じがたい」と指摘しています。
さらに、調査会社SemiAnalysisは、ディープシークは実際にはエヌビディアの次世代GPUを使用しており、モデルのトレーニングには約16億ドルが費やされたと報告しています。
ただし、重要なのは、ディープシークが導入したコスト削減技術が、AIの普及を加速させる可能性があることです。これにより、多くの企業がAI製品の開発に参入し、結果的にエヌビディアのGPUに対する需要が増加することが考えられます。
アマゾンとアルファベット、AIインフラ投資を拡大
先週、アマゾンとアルファベットは2024年第4四半期の決算を発表しました。両社は、AIインフラの供給が依然として制約されているため、2025年には設備投資を大幅に増やす計画を明らかにしました。
アマゾンの最高経営責任者(CEO)であるアンディ・ジャシー氏は、AIモデルの開発コストは引き続き低下すると予測しました。一方で、「企業がAIをあらゆるアプリケーションに統合することが容易になっていく」と述べています。また、最高財務責任者(CFO)のブライアン・オルサフスキー氏は、AIインフラの需要増加により、設備投資が2024年の830億ドルから2025年には1000億ドルを超える可能性があると説明しました。
アルファベットのCEOであるスンダー・ピチャイ氏も同様の見解を示しています。同氏は、トレーニングコストが低下するにつれ、設備投資の重点が推論(AIの実行)にシフトしていると述べました。これにより、ディープシークの技術がAI市場への投資を減少させることはないと考えられます。さらに、アルファベットのCFOであるアナ・アシュケナージ氏は、データセンターやサーバー、ネットワークへの投資が拡大することにより、設備投資が2024年の520億ドルから2025年には750億ドルに増加すると予測しています。
これらの計画は、AI技術の進歩によってエヌビディアのGPU需要が減少するのではなく、むしろ増加する可能性を示唆しています。アンディ・ジャシー氏は、クラウドサービスの価格が低下しているにもかかわらず、クラウドコンピューティングの利用が増加している状況に例え、「AI市場でも同様の動きが見られる」と述べました。
ウォール街はエヌビディアの成長を依然として楽観視
ウォール街のアナリストは、エヌビディアの調整後利益が2026年1月に終了する会計年度まで年間52%のペースで成長すると予測しています。この予測に基づけば、現在の株価収益率(PER)は依然として割安に見える可能性があります。
確かに、アナリストの予想が高水準であるため、エヌビディアが期待を下回る結果を出した場合、株価が下落するリスクはあります。しかし、多くの専門家は、AIトレーニングの効率化がエヌビディアのGPU需要を押し上げると見ています。さらに、アマゾンやアルファベットといったハイパースケールクラウド企業の投資計画が、その見方を裏付けています。
まとめ
ディープシークの技術革新によってエヌビディアの市場が脅かされると懸念する投資家は多いですが、長期的に見れば、より効率的なAIトレーニング技術の登場はむしろ同社のGPU需要を押し上げる可能性があります。アマゾンやアルファベットの設備投資の増加は、エヌビディアの成長が今後も続くことを示唆しています。
そのため、エヌビディアの株主は短期的な株価の変動に動揺するのではなく、AI市場全体の成長と同社の長期的なポジションに注目することが重要です。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA