中国のAI企業であるディープシークは、わずか600万ドル未満の費用で人工知能(AI)システムを開発したと発表し、世界を驚かせました。しかし、この主張について、アルファベット(GOOGL)傘下のAI部門DeepMindの最高経営責任者(CEO)であるデミス・ハサビス氏は、「誇張されており、少し誤解を招く」と指摘しました。
先月、ディープシークは、オープンAIやDeepMindといったアメリカの競合企業よりもはるかに少ないコストで、先進的なチャットボットとAIモデルをリリースしました。この報道を受けて、AI開発のコスト構造が大きく変わる可能性があると議論されています。しかし、ハサビス氏は「ディープシークが報告しているのは最終的なトレーニングラウンドのコストのみであり、総コストのごく一部に過ぎない」と述べました。
ディープシークのコスト削減はAI開発の常識を覆すものではない
ハサビス氏は、ディープシークの登場がAI開発のコスト構造を根本から変えるものではないと明言しました。2月10日にパリで開催された人工知能アクションサミットにおいて、「私たちは、新しい特効薬となるような技術は見出していない」と述べ、「ディープシークは効率曲線において異常値ではない」との見解を示しました。
ディープシークは、旧型のエヌビディア(NVDA)のチップを使用してAIモデルを訓練し、そのコンピューティングコストとして560万ドルを費やしたと報告しています。しかし、この主張に対し、複数の研究者が疑問を呈しており、AIのトレーニングにはそれ以上のコストがかかる可能性が高いと見られています。
米国当局がディープシークのチップ調達を調査
アメリカ政府は、ディープシークがシンガポール経由でエヌビディアのチップを購入し、アメリカの輸出規制を回避した可能性について調査を開始しました。バイデン政権は、中国企業による最先端のAI開発に対する規制を強化しており、今回の事例が規制違反に該当するかどうかが注目されています。
また、ブルームバーグの報道によると、オープンAIとマイクロソフト(MSFT)は、ディープシーク関連のグループが「蒸留」と呼ばれるプロセスを利用し、オープンAIのデータを不正に取得した可能性について調査を行っています。蒸留とは、1つのAIモデルが別のモデルの出力を利用してトレーニングを行う手法であり、不正なデータ取得の手段として問題視されることがあります。
ハサビス氏も「ディープシークは、いくつかの西洋モデルを蒸留するために利用したようだ」と述べ、同社のAIモデルの開発手法について疑問を呈しました。一方、ディープシークの広報担当者は、コメントの要請に対し即座に応じていません。
アルファベットは引き続きAI分野への巨額投資を継続
ディープシークがAI業界に与えた影響が注目される中、アルファベットは依然として多額の投資を続けています。先週、アルファベットは2025年に750億ドルの資本支出を計画していると発表しました。この資金は、クラウドコンピューティング部門や、検索エンジンなどのサービスに組み込まれるAIモデル「Gemini」などに活用される予定です。
ハサビス氏は「Geminiは、トレーニング効率やコストパフォーマンスの面でディープシークよりも優れている」と述べ、同社の技術が依然として業界をリードしていることを強調しました。
AI開発の競争は激化しており、低コストでのAIモデル開発が本当に可能なのか、それともディープシークの手法に問題があるのか、今後の展開が注目されます。