2025年1月29日付のマーケットウォッチのニュースレター「TECH」に、ディープシーク(DeepSeek)に関する興味深い記事が掲載されました。この記事では、生成AIの市場構造がどのように変化しているのかが詳しく解説されています。
ハードウェアメーカーへの影響
生成AIの革命が始まってから最初の2年間、その恩恵は主にコンピュータ・ハードウェア・メーカーに集中していました。エヌビディア(NVDA)が最も大きな勝者であり、デル・テクノロジーズ(DELL)、スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)、TSMC(TSM)、SKハイニックスなどのサプライヤーも同様に恩恵を受けていました。この動きは、AIが膨大な計算能力を必要とし、高価であるという認識に基づいていたためです。
しかし、中国のAI研究所であるディープシークが、オープンAIやグーグルが提供する米国の代表的なAIに匹敵するモデルを、わずかなコストで開発したと報じられました。このニュースを受け、ハードウェア関連の株価が急落しました。
ハードウェアからソフトウェアへ:価値の転換
記事では、ディープシークの登場により、AI市場における価値の流れがハードウェアからソフトウェアへと移る可能性が高まっていると指摘されています。ウォール街では、成長見通しに対する再評価が進められており、すでに勝者と敗者が見え始めているようです。
BoxのCEOであるアーロン・レヴィ氏は、SNS上で「インテリジェンスのコストが急速に低下し続ける世界では、より多くの価値がアプリケーション層に還元される」と述べています。AIと顧客のワークフロー、さらには独自のデータを組み合わせた製品が、今後大きな価値を生み出すと考えられています。
AI統合を進めるソフトウェア企業の優位性
この流れの中で、有利な立場にあるのがセールスフォース(CRM)です。同社は企業向けソフトウェアにAIを統合することを推進しており、ディープシークの手法が再現できれば、AI機能のコスト構造を大幅に削減できる可能性があります。この期待感から、セールスフォースの株価は市場全体が下落する中で4%上昇しました。
バーンスタインのアナリストであるマーク・モアドラー氏は、「ソフトウェア、SaaS、コンシューマー・インターネット企業が最大の勝者となる可能性が高い」と指摘しています。
マイクロソフトの立ち位置
マイクロソフト(MSFT)はこの変化の中間に位置しています。同社は大規模なAIクラウド事業を展開し、オープンAIなどにAIアクセラレーターをレンタルしています。もしディープシークの技術が広まれば、新たなAIデータセンターの需要が予想よりも少なくなり、クラウド価格が低下する可能性があります。
しかし、マイクロソフトは依然としてソフトウェア企業です。同社の主要なAIサービスであるMicrosoft 365 Copilotは年間360ドルの価格設定となっていますが、ディープシークの技術によってコスト削減が進めば、価格を引き下げることが可能になり、利用者の拡大とともに売上の向上が期待できます。
オラクルのポジションとAI普及への影響
クラウドサービスを提供するオラクル(ORCL)にも同様の影響が考えられます。オラクルは主にソフトウェア販売を中心に事業を展開しており、AIコスト削減の恩恵を受けやすい立場にあります。
より広い視点で見ると、ディープシークのようなコスト削減技術は、経済全体にAIサービスを迅速に普及させる可能性があると記事では指摘されています。ジェフリーズのアナリストであるブレント・ティル氏は、「AIが広く普及するためには、推論コストの縮小が必要であり、それが売上原価の削減と普及の加速につながる」と述べています。
AI市場の未来とディープシークの影響
記事の締めくくりでは、ディープシークの技術が本物であれば、AI業界全体のコスト構造に大きな変化をもたらす可能性があると指摘されています。これは、1990年代にPCやサーバーが主流であった時代から、ソフトウェア企業が価値を吸収する形へとシフトした流れと似ていると説明されています。
ChatGPTの登場後、再び「ソフトウェアが世界を席巻する」時代に突入している可能性があります。ディープシークが幻である可能性も否定できませんが、もしそうでなければ、AI市場の展望は大きく変わることになると記事ではまとめられています。
このマーケットウォッチの記事は、AI市場の変化に関心がある投資家にとって非常に参考になる内容となっています。