米国株式市場の急騰は、エヌビディア(NVDA)なしでは語れません。同社は人工知能(AI)への投資が殺到する中核的な存在であり、業界をリードしています。一方、世界で最も先進的なチップ工場を運営するのは台湾のTSMC(TSM)です。そして、そのTSMCを支える重要な技術は、オランダのASMLホールディング(ASML)によるリソグラフィ装置によって実現されています。
驚異的な成長を遂げた3社
これらの3社は過去10年間で投資家に莫大な利益をもたらしました。エヌビディアの株価は29,000%も上昇し、TSMCの米国預託証券(ADR)は1,100%の上昇、ASMLのADRも800%上昇しました。しかし現在、エヌビディアとTSMCは高値圏で取引されている一方で、ASMLの株価は昨年のピークから約3分の1下落した水準で取引されています。
このように大きく下落しているASMLの株価ですが、同社の市場地位に大きな変化はなく、いずれは回復すると考えられています。
ASMLの技術的背景とEUVリソグラフィの重要性
ASMLの専門領域は、極端紫外線(EUV)技術を活用したリソグラフィです。この技術は、非常に短い波長を用いることで、シリコンウェハー上に高密度な回路パターンを形成します。現在のASMLのEUV装置は13ナノメートルの解像度を誇り、半導体メーカーはこれを用いて7ナノメートルや5ナノメートル、さらには3ナノメートルのチップを製造しています。
ムーアの法則が示すように、トランジスタの密度は約2年ごとに2倍に増加し、コンピュータの性能向上を支えています。この進歩を支えているのがASMLのEUV技術です。例えば、同社の装置は1秒間に落下する数万個の溶融スズの滴にレーザーを照射し、極めて高精度な作業を行います。この技術開発には数十年を要し、ASMLはドイツのカールツァイスやトルンプといった専門企業と協力してこの成果を築き上げました。
最近の低迷とその理由
ASMLの成長が一時的に鈍化している理由は3つあります。
- 中国からの需要の変化
中国が貿易制限の強化に備えてASMLの低価格機器を備蓄しており、この急増分が収束したことによる一時的な影響です。 - 顧客企業の投資計画の変更
インテルやサムスンは自社工場向けの装置発注を一部延期しており、これがASMLの売上に影響を与えています。 - 消費者向け市場の低迷
AI市場は成長していますが、携帯電話やパソコンなどの消費者向けデバイス市場が停滞しています。
ASMLだけでなく、フィラデルフィア半導体指数に含まれる企業の約3分の2が過去1年間でS&P 500指数を下回るパフォーマンスにとどまっています。
ASMLの今後の見通し
ASMLは、高開口数(NA)EUV装置の導入を控えています。この次世代機は、より高精度なチップ製造を可能にし、2ナノメートルから8ナノメートルの解像度を実現します。2025年にはこの技術が広く採用される見通しであり、1台あたり約3億8000万ドルから4億ドルとされる価格で販売される予定です。
また、半導体業界全体では、小型化のトレンドが続き、ASMLの技術が求められる状況は今後も変わらないと予想されます。
投資家への影響
ASMLの売上は今後5年間で年間平均16%成長すると予測されています。同社の株価は現在、売上予測の37倍で取引されており、過去10年間の平均的な評価と比較すると割安な水準にあります。J.P.モルガンも同様の見解を示しており、今後の上昇余地が期待されています。
まとめ
エヌビディア、TSMC、ASMLの3社は、半導体業界と米国株式市場の成長を支える重要な存在です。ASMLは一時的な低迷を経験しているものの、高NA EUV装置の導入などを通じて成長を回復する可能性が高いと見られています。特に、スマートフォンやPC市場の需要が回復することで、同社の業績は再び力強さを取り戻すと考えられます。