12月13日付けの日本経済新聞の有料会員向け記事「エネルギーの新秩序 国富を考える(3)」を読み、改めて世界のエネルギー情勢の激変ぶりに深く感銘を受けました。この記事は、長らく当たり前とされてきた「原子力は安価」「再生可能エネルギーは高額」という常識が、いまや完全に逆転した現実を、具体的な数字や事例を豊富に盛り込みながら示しています。
特に印象的だったのは、アメリカ南部ジョージア州での電気料金急騰の事例です。年金生活者のアンナ・ハマーさんは、8月の電気代が618ドル(約9万3千円)に達し、前年同月のおよそ2倍にまで跳ね上がりました。また、同州郊外に暮らすジェームズ・ピンダーさんも、7月の電気代が646ドルと前年同月比で6割増加したといいます。これらの急騰は新設原発の建設費上振れが引き金となっており、「原発は安い」といった固定観念が過去のものになりつつあることを如実に物語っています。
記事中で紹介されている米調査会社ラザードのデータも衝撃的です。2009年から2019年にかけ、太陽光発電はコストが9割減という劇的な下落を示し、陸上風力も同様に大幅な低減を記録。一方で原子力はコスト増加傾向にあり、「再エネ=高い」という認識が世界標準ではもはや通用しなくなっていることが明確になっています。
象徴的なのが中国の動きです。内陸部の砂漠に広がる世界最大の太陽光発電所は、地平線まで続く黄砂の上に無数のパネルを敷き詰め、約300万世帯をまかなう驚異的な規模と発電量を誇ります。投資額は150億元(約3100億円)にも及び、23年に新設した太陽光発電設備容量は前年の2.5倍というスピード感。その年間増設量は米国全体の既設容量を上回るほどで、中国は再エネの分野で世界をリードする存在へと飛躍しつつあります。
一方、日本はこの急激な世界標準化の動きから大きく遅れ、再エネ導入量・コストともに世界水準に追いついていません。23年までの導入ペースは減速し、太陽光発電コストは依然として世界平均の2倍と高止まり。「再エネは最も安い電源」というグローバルスタンダードが、日本ではまだ実感しづらい状況です。
この日経の記事は、エネルギー価格をめぐる世界的なパワーバランスの変化を一望させ、原子力・再エネ・火力それぞれのコスト構造を抉り出す秀逸な分析でした。読後には、「エネルギー選択をどう考え、国としていかに戦略的な投資を行うべきか」という問いが強く意識に残ります。
コストや政策、国際政治が複雑に絡み合うエネルギー分野において、日々生まれ変わる「新常識」を見逃さないことは、私たちの未来を切り拓くためにも重要です。この日経の記事は、そのきっかけとなる貴重な機会を提供してくれました。興味をお持ちの方は、ぜひ直接記事に目を通してみてください。