米国内で行われた新たな調査によると、消費者は人工知能(AI)の利用に対して急速に関心を高めている一方で、企業の導入速度はそれほど速くないことが明らかになりました。この動向は、AIがもたらす新たなテクノロジーの影響を如実に示しています。
調査結果:消費者のAI利用が急速に拡大
セントルイス連邦準備銀行、ヴァンダービルト大学、ハーバード大学の経済学者が実施した調査によれば、AIの普及率はパーソナルコンピュータ(PC)やインターネットが普及し始めた初期段階よりも早いペースで進んでいます。
「PCの普及には高価なハードウェアが必要でした。また、インターネットはモデムや契約が必要でした。しかし、多くの生成AIツールは無料または低価格で提供されています。そのため、人々は手軽に試すことができ、その利便性を体験しやすくなっています」と調査執筆者のアレクサンダー・ビック氏とアダム・ブランディン氏は述べています。
調査対象者のうち32%が直近の1週間で生成AIを使用しており、その用途は仕事以外(26%)と仕事(24%)の両方に分かれていました。特に仕事での利用は、コンピュータ、数学、経営、金融といった分野の若年層や高学歴層の男性に多いという傾向が見られました。
主な利用サービスと競争状況
生成AIの利用状況で最も多かったのは、OpenAIのChatGPTで29%を占め、次いでアルファベット(GOOGL)のGoogle Geminiが16%、マイクロソフト(MSFT)のCopilotやメタ・プラットフォームズ(META)のAIがそれぞれ14%を占めています。
ただし、AIサービス市場における競争は激化しており、2年前に市場をリードしていたOpenAIの地位は、新たなライバルの台頭により揺らぎつつあります。また、無料オプションが増加していることやAIモデルの進化速度が鈍化している現状も、企業が市場での独占的な地位を築く難しさを示しています。
消費者の利用実態と企業の慎重な動き
AIを仕事で使用していると回答した人の74%が、1日15分以上利用しており、そのうち15%は1時間以上活用しています。主な用途としては、文章作成、検索、タスク指示の取得が挙げられます。この結果は、Googleが独占禁止法関連の裁判で提示した主張を裏付けるデータとなっています。
一方で、企業のAI導入は比較的緩やかに進んでいます。米国勢調査局のデータでは、商品やサービスの生産にAIを利用した企業の割合は11月時点で6.1%にとどまりました。これは昨年の3.7%から増加したものの、依然として低い水準です。
新しいテクノロジーの導入は従業員から始まる
消費者向けAI調査の著者によれば、「新しいテクノロジーの初期段階では、従業員が企業の導入を先導することが多い」とのことです。例えば、電子メールが普及した際も、企業が公式システムを導入する前に従業員が個人用アカウントを業務で活用していたことが知られています。
クラウドストレージ企業のBoxの創業者兼CEOであるアーロン・レヴィ氏は、同様の事例が2010年代初頭にも見られたと述べています。「従来の文書管理技術に不満を持った従業員が、新しい技術を企業内に持ち込む動きが見られました。その後、企業が正式に導入する流れとなりました」と語っています。
業界ごとに異なるAIの採用状況
国勢調査局のデータによると、業界ごとにAIの採用状況にはばらつきがあります。宿泊・飲食サービス業でAIを使用している企業がわずか1.5%である一方、情報通信業では2023年初めの14%から11月には21%に増加しました。これらのデータは、業界ごとのAI利用の進展度合いが異なることを示しています。
今後の展望
消費者のAI利用の急速な拡大と企業の慎重な導入姿勢の対比は、AIが引き起こす技術革新の進展において重要なポイントとなります。今後もこのギャップを埋める動きが進むことが期待されます。