近年、金は安全資産として多くの投資家を魅了し、今年は約30%もの上昇を遂げました。しかし、米大統領選挙後、金は一部の輝きを失いつつあります。一方で、ビットコインは、米国連邦準備制度(FRB)のパウエル議長による「ビットコインは仮想かつデジタルな金」との発言や、次期政権を率いるトランプ氏の積極的な支持を受け、さらなる高騰を見せています。
選挙後に沈む金価格、急騰するビットコイン
大統領選挙後、金は約3%下落した一方、ビットコイン価格は30%超の上昇で10万ドル超えを記録し、投資家は金よりもビットコインへ資金を振り向ける動きを見せています。世界黄金協会(World Gold Council)のデータによれば、11月には金ETFから資金流出が確認され、4月以来初めての純流出となりました。
トランプ氏陣営と米国政府のビットコイン支持拡大
次期大統領となるトランプ氏はビットコインを全面的に支持していると報じられています。また、トランプ氏に近い共和党上院議員、ワイオミング州選出のシンシア・ルミス氏は、米国財務省が5年間で100万ビットコインを購入し、「戦略的ビットコイン備蓄」を形成する法案を7月に提出。さらに、連邦準備銀行が一部の金保有を売却してビットコイン購入に充てる提案も示唆されています。
ビットコインETFと金ETFの資産規模逆転
こうしたビットコイン支持が広がる中、金融業界でもその影響は顕著です。世界的な資産運用会社ブラックロック(BLK)は、自社が運用する「iシェアーズ・ビットコイントラストETF(IBIT)」を通じて、すでに500億ドル超の資産を集めています。一方、ブラックロックの金ETFである「iシェアーズ・ゴールドトラスト(IAU)」は2005年にローンチして330億ドル規模にとどまっており、短期間でビットコインETFが金ETFを資産規模で上回る状況です。
金からビットコインへの資金流出と世界の投資動向
投資家が金を手放しビットコインへ資金を振り分ける背景には、FRBパウエル議長による「ビットコインは仮想かつデジタルな金」という発言も大きく影響しています。これは米国中央銀行が仮想通貨を脅威ではなく新たな資産クラスとして認識し始めたシグナルとも受け取られています。
ビットコインが「戦略的備蓄資産」に?
N7キャピタルの創業者兼CEOであるアントン・チャシュチン氏は、ビットコインが国家の準備資産として採用される可能性に言及しています。ビットコインはドル価値の下落懸念が高まる中、資産の分散およびヘッジ手段として機能する可能性があります。
ボラティリティの差:金とビットコインの投資的役割
一方で、ビットコインは依然として高いボラティリティ(価格変動)を伴います。インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の上級エコノミスト、ホセ・トーレス氏は、パウエル議長の発言でFRBがビットコインを米ドルへの挑戦者と見なしていない印象を示したと述べています。しかし、ビットコインは過去に4年ごとに70〜80%もの暴落を経験しており、安全資産としての信頼性は金に及ばず、下落相場での下値支えには限界があります。
長期ポートフォリオ戦略:ビットコインと金の共存
グレンミードの投資戦略・リサーチ責任者ジェイソン・プライド氏と投資戦略担当副社長マイケル・レイノルズ氏は、ビットコインが明確な経済的目的や投資上の役割をまだ確立していないと指摘しています。一方、Quantify FundsのCEO兼CIOであるデイビッド・ジーカンスキ氏は、ビットコインと金は相互に補完関係を持ち、両資産を組み合わせることでポートフォリオ全体の分散効果を高め、長期的な価値の保持に役立つ可能性があると述べています。
今後の展望:政府支持と市場受容がビットコインを加速
グレンミードのプライド氏とレイノルズ氏によれば、ビットコインが「より広範な市場での受容」や「意味のある政府支援」を得れば、その地位はさらに強固になり得ます。
すでに複数の大手資産運用会社がビットコインETFをローンチし、米国政権も積極的にビットコインを支持している動きは、ウォール街とワシントンの双方からの後押しとなり、ビットコインの存在感拡大につながる可能性があります。
まとめ
金が長年「安全資産」として支持されてきた一方で、ビットコインは新たなデジタル資産クラスとして急速に台頭しつつあります。米国政府やFRB、そして大手資産運用会社がビットコインの価値を認める環境下、今後もビットコインの影響力は増大していく可能性があります。金とビットコインは対立ではなく、相互補完的な関係を築きながら、ポートフォリオ分散と価値確保の手段として活用される余地があります。